「……で、忘れ物をした当時の三年生が、夜に旧校舎の鏡の前を通りかかったんだ。

 そしたら、どう見ても自分のものじゃない人影が映ってて、

よくよく見ようと近づいたら人影の口が動いたんだって。



 ぼそっと






 『ここは人が死ぬから気をつけろ』


「ハマ!ハマオン!」

「だーっ!うるせえオマエ!オレも怖いんだ!黙ってろ!」


 ヒジリさんは苦笑しながらテレコを止めた。


「スチールも撮りたいし、休憩するか」

「どう?オレの語り」

「ああ、どっかで聞いたような話ばかりだけどよく知ってるよ」

「怖い話は女子ウケいいからね。けっこ詳しいぜ」

「じゃあおれも一発。

 ……厚化粧で美人と評判の学校の先生がいたんだけど、

 助けに行って振り向いた時に顔一面にムラサキの染みが張り付いて、

 気味の悪いことばかり口走るんです」

「先生は厚化粧じゃない!」

「それは……怖い話なのか?」




 取材は編集部の会議室で行われた。

 窓はブラインドを外し、学校にあるような椅子でなんとか教室らしさを出している。

 緊張したのは最初だけで、ヒジリさんがふざけたことばかり言うものだから、

 おれたちはいつのまにかすっかり場に馴染んでいた。




 ストロボが不意に焚かれる。見ればヒジリさんがでかいポラロイドを抱え、

ペットボトルを咥える勇に向かいシャッターを切っていた。




「ちょ……いきなり撮らないでくれよ。顔作ってないし」

「仮撮りだ」

「ヒジリさんって、写真もやるんだ」

「マイナー誌のライターはなんでもやるんだよ。

 情報だって足で集めなきゃならんしな」

「制服、大丈夫かなぁ。学校にバレない?」

「入らんように撮るから安心しろ。

 何なら目線も入れてやる」

「ハハハ、投稿雑誌みたいだな」

「しかし、女子がいないのは絵的に寂しいな。

 素人女子高校生ってだけで紙面が盛り上がるんだがなぁ」

「悪ぃ、アテにしてた女の子に振られちゃってさ」

「勇、セーラー服着ねぇか?きっと似合うぜ。

お前なら、フォーカス掛ければまずバレない」

「うわ、そんなもんまであるのかよ」

「上がエロ本の編集部だからな。借りてこようか?」

「マジかよ。どうしよっかなぁ……」

「勇!やめろよな!」



 なんなんだこの二人の世界は。

 勇はヒジリさんにすっかりタメ口で、リラックスした様子で笑い転げてる。

 ヒジリさんも、あんまりここに居たくないおれよか、勇のほうが話しやすいみたいだ。



「なんだよ、ジョークだってジョーク。

 マジに取るなよな。ヒジリさんも本気じゃないし。

 女子の制服着てオレに似合うわけないだろ」



 いや、そんなこともないと思うけど。



「お前ら仲いいなぁ。代々木公園の時も。

いつも一緒だな」



 ヒジリさんが目を細めると、勇はふざけておれの腰を引き寄せた。

 急なことでおれは瞬間、固まってしまう。



「そうそぅ、すっげぇ仲良し。オレたち実はホモでさぁ。な?」

「そうか、俺はどっちもいけるぞ」



 にこりともせずにヒジリさんが言うものだから、勇まで一瞬で固まった。



「さ、続けるぞ。

 カメラ意識しなくていいから普通にしゃべっててくれ。

 さっきの旧校舎の話はあれで落としていいんだな?」




 ヒジリさんは、見たこともないようなごついカメラをおれたちに向けた。















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