「神楽坂までいくら?」
「190円」
「定期どこまで使えんだろ。交通費出るって言ってたけど」
切符売り場で勇がパスケースから路線図を引っ張り出す。
一緒に何かが落ちたけど、地下鉄の細かい字を読むのに夢中でまるで気付いてない。
「新宿ったって、普段東口のあたりしか行かねーもんな。
タイムズスクエア行く通りにさ、好きな古着屋あったんだけど潰れちゃって」
「勇、なんか落ちた」
「ん」
ちっちゃい正方形を拾い上げて固まった。
可愛いキャラクターが描かれてるけど、これってあれだろ。コンドー…………。
勇は何事も無かったようにパスケースの隙間にねじこむ。
「……なんだよその目。いいだろ、別に持ち歩いても。
前カノん時の、入れっぱなしだっただけだから」
「…………」
「あ、東西線これだ。行こうぜ」
勇は振り返りもせずにさっさと行ってしまう。
おれは遅れるのが嫌で足を急がせる。
千晶は結局来なかった。
「いやぁね、怪談なんてくだらない。時間の無駄でしょう?」
とあっさり言い切った。
勇が断ってくれるのを期待したけど、
「しょうがねえな、男二人で行くかねぇ。
ヒジリさん困るかなぁ」
とぼやいただけ。
あれと二人っきりにさせるわけには行かないから、おれに選択の余地はない。
二人で電車に乗るのは久しぶりだったけれど、勇はあんまりしゃべらなかった。
おれもちょっとショックが抜けなくて、地下鉄の何も無い窓の外をずっと見てた。
勇は顔も可愛くてノリがいいからそこそこモテる。
1年の時も適当に告ってきた子とつきあっては即効別れたりしてた。
ずっと見てたから知ってる。誰かといるのを見る度に胸が痛くなった。
2年になってすぐの時も、おれの机に座り、振られちゃってと笑っていた。
でも、相手の子も同じことを言ってたことを後で知った。
それからは誰ともつきあってない。
やっぱ女は年上だよな。
オレには祐子先生しか見えねぇぜ、と公言して回っている。
「なぁ、勇」
「なんだよ」
「前の彼女と、どうして別れたの」
「知らね。めんどくさくなったんじゃねえの?」
「向こうが?それとも、勇が」
「両方。
――てか、やっぱ年上だろ。女は。
祐子先生帰ってきてくれてすげぇ嬉しいよ。
センセ、少し痩せたかな。
あ、オレMD取りに行くの忘れた!
くそっ、せっかく話せるチャンスだったのに」
勇はそれから先生の話だけをしていた。
プライベートな話になるといつも話を反らす。