………勇。

……今、なんつった……?











「――なぁ、なんでオレ生き返らせたんだよ。

オレはあの塔で朽ち果ててよかったのに。

 これが“人修羅”の望んだ世界か?」








 あ――。







「オレがここじゃ異物でしかないことを、オマエが一番よく知ってるはずだろ?」








 ああ。




 あれも、これも、勇、




 全部知ってて、




「……お前、全部わかってて――」

「オマエは罪悪感を感じたくなかっただけだ。

 だから世界が元通りになることを願った。

オレも――、千晶も、あの男も元通りに、何も無かったことにしたかっただけさ」




 ヒジリさんを殺したことも全部覚えていて、それで近づいたのか――。




「ち――ちが………うよ。

 おれは……おれはただ……

みんなでもう一度……」

「ハハ……。

それでオマエの気は済んだかもしれねぇが、

なぁ……オレはなんなんだよ。

 オマエの世界を構築するためのパーツかよ?」















「……やだよ……」









 あの世界で何があったか。

 お前が絶望の果てに何を手に入れたのか。

 おれが――、








勇を。



 










「………もう……嫌なんだよ、おれ。

 友達殺したり……悪魔殺したり……

…………誰もいない……何もない世界嫌なんだよ……。

 先生見殺しにしたりできるわけねぇしよ……」








 頭を抱えておれは呻いた。

 見知った世界すべてがまたおれを裏切る。

 どうしてもっとうまく反論できねぇんだ。

 これじゃ認めてることと同じじゃないか。









「悪魔の力なんて好きで手に入れたわけじゃねぇよ……!」









 ずっと思ってた。

勇が忘れてくれてよかったと。

あんな記憶は悲しすぎる。

すべてを忘れて何も無かったことにして、

今まで通りやり直してくれればと。








だけど、違う。








 おれのためだ。

おれが忘れていてほしかった。

おれがお前を救えなかったことなど、

お前が世界を見限ったことなど、






 
どうか覚えていてくれるなと、

そう願って。







 勇。

 …………勇。













 ……早く、起こしてくれよ。









「………結局オマエは世界を創る器じゃない。

 ただのお人好しだよ。

 そしてオレは――そんなオマエにすら勝てなかったんだな……」

「……ごめ………」

「謝ったって何も変わらねぇだろ」







 逆光の中、立ち尽くす勇を見上げることができない。

 きつく握り締めた制服の膝をひたすら睨みつけていた。










「別に……オレは殺されたことなど恨んじゃいねぇよ」

「………ごめ……なさい…………」











「だから――もう、オレに構うな」
























 顔を上げた時には、すでに勇の姿は掻き消えていた。

 たとえ目の前で背を向けられたとしても、おれに引き止めるすべなど無かっただろう。



 あの時のように。


























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