「宿帳なんて書いたんだよ」
「兄弟」
「“聖勇”なぁ……。
しっくり来ねえなぁ。おまけに兄弟にしちゃ、歳離れすぎだよなぁ」
露天風呂から上がると、布団が微妙な距離で並べて敷かれていた。
平行にしか置きようがないんだろうが、なんだか照れ臭い。
オレへのサービスか、宿だけはわりといい旅館を取ってくれていた。
「他に書きようもねえだろ。
何かあったら後ろに手が回るのは俺のほうだしな」
「ハハッ、一応気にしてるんだな」
「当たり前だ」
浴衣を着たヒジリさんは、バタ臭いサムライって感じでわりかし様になっていた。
布団の上に胡坐して、オレをちょいちょいと手招きする。
近づくと、いきなり帯に手を掛け前をくつろげられる。
「エロ」
「違う。
さっきから気になってたんだが、勇。
浴衣の合わせが逆だ。それじゃ死人だぜ」
ヒジリさんはオレの浴衣を直し、うんうんと頷いてから改めて裾を割った。
「結局やるんじゃねえか」
「まぁそうだ」
昼間青姦したばっかじゃねえか。
仕事に来ているにも関わらず、ヒジリさんは貪欲だった。
ちんちんは扱かれすぎて痛ぇし、来る途中も車の中でしゃぶらされて顎がくたくただ。
盛りがついてるというより、単純に淋しいんだろう。
旅行中、別れた相手のことは一言も話さなかったけれど、
オレは時々隣にいるのがいたたまれなくなった。
その恋人だったらどんなふうに言葉を掛けたのだろう、とか。
少なくとも浴衣の合わせは間違えないだろう、とか。
こうやってベタついてる今も、ヒジリさんはオレといて本当に楽しいんだろうか。
ねちっこいキスの最中に携帯が鳴った。今度はオレの着メロだ。
「出ないのか?」
「いい」
どうせ大した用事じゃない。
親か、
トモダチか、
それとも――。
「いいんだ」
オレはもう一回言って、ヒジリさんの肩に頭を押し付けた。
「あのさぁヒジリさん」
布団を隙間無くくっつけて、オレは眠りかけているヒジリさんの横顔をつねった。
「なんだ?」
「オレね、誰かと二人で旅行するの初めてなんだぜ」
「そうか」
「楽しいよ」
「そりゃよかった」
「おやすみ」