代償に体を要求されることもなく、宿題のことだけ念を押されおれは解放された。
ああ、空が青い。
こんな晴れ晴れした気分は久しぶりだ。
夏休みさえ終われば、すべての苦しみから開放されるんだ。
「何よ。ニヤニヤして気味が悪いわね」
勇の姿はとっくに無かったけれど、代わりに幼馴染みが昇降口で待っていてくれた。
珍しいこともあるもんだ。
「祐子先生と何を話していたの?」
「別に?勉強のこととか」
「そう?ならいいんだけど」
千晶は妙なところでカンが鋭いからな。
うっかり知られないように気をつけないと。
「夏休みだからって浮かれすぎよ。もっと気を引き締めないと。
2年生の夏は勝負時なんだから。3年になってからじゃ遅いのよ」
「そうだなぁ。がんばるよ」
千晶、悪い。今度はお前を病院へは呼ばない。
もう一度千晶と戦って勝てる自信が正直ないんだ。
ほんと申し訳ないけど、必ず生き返らせてやるから。
「宿題ももう写させてあげないから。
ちゃんと自分でやりなさいよ。31日にまとめてやるとか言わないでね」
「そうだなぁ。がんばるよ」
氷川さんは……こないだの恩(右手)もあるしなぁ。
ニヒロ機構がないと、どうやってオベリスク打ち建てるかわからないしなぁ。
しかし何て言って病院に呼び出そうか。
「まぁ別に君たちみたいな負け組が落ちこぼれても、
私はどうでもいいんだけど」
「そうだなぁ。がんばるよ」
ヒジリさんは……本当に本当に本当に申し訳ないけど今回は死んでもらおう。
生き返らせてみせるから!たぶん!
いや決して嫌いなわけじゃないんだけど、ボルテクス界で勇とツラつきあわせると
なんだかまた悪いことが起こりそうな気がする。
あ、でも、おれ一人じゃアマラ経絡動かせないんだよな……。
まいったなー、呼ぶしかないか。
どうせあの人ターミナルから動かないし。
「本当に人の話聞いてないわね」
「そうだなぁ」
勇は……。
今度はぜってー一人にしない。
もう遅いだなんて言わせないし、今度こそおれが守ってみせるんだ。
あんなコトワリ二度と啓かせるもんか。
今度こそ、今度こそうまくやってみせる。
二度目ならきっと、もっとうまくいくはずなんだ。
「よーし、がんばるぞ!」
「……前向きならいいってもんじゃないわよ」
「千晶、お前が受ける夏季講習ってまだ空きあるか?」
「あら、どうしたの?珍しいわね」
「夏休みスケジュールきっちり詰めようと思ってさ。
受験勉強なら今やっておいても無駄にならないだろ」
「いい心がけね。そうね、私が言えばなんとかなるかも」
忙しくしてればあっという間に夏休みなんて終わるはずなんだ。
ぼーっとしてたら勇のこと考えちまうし、
休みの間中、勇の姿探して繁華街うろつくのはもうごめんだ。
すべては夏休み終わるまでの辛抱だ。
「よろしくな、千晶」
「いいけど、私に恥かかせないでよ」
「…………」
空はバカみたいに晴れてるし、夏休みは本当に始まったばかりなんだから。
東 京 ラ バ ー ズ