イヌノのバカ。




 アホくせえ。何があてつけだよ。

 好きでもなきゃ、誰が洗って無い童貞×××をくわえるわけねーだろ。




 なんだよオレバカみたいじゃねえかよ。あんなことしてバカみたいじゃねえか。

 勇気振り絞ってほんと損したぜ。オレもバカだけどイヌノもバカだ。

 バカとバカが連れ合おうっていうほうが無理なんだ。



 いっつもそうなんだよ。オレが何やろうとしたってうまくいかねえんだよ。

 なんにもしないほうが全然マシじゃねえか。

 何度繰り返せば懲りるんだよ。




 何かを変えようとして、

 うまくいった試しなんて一度も無いんだから。


















 T  O  K  Y  O  L  O  V  E  R  S































「それでさぁ、逆ギレだぜ?わけわかんねーよ実際。

 なんだよ、童貞って宇宙から来た生命体かよ」

「地球人も宇宙人の一人だぞ、勇。

 それで地球外生命体はいないなんて考えがどこから湧いてくるのかわからんよな」


 駆け込んだ先はヒジリさんの部屋で、

 そこの主は床の上で英字新聞をスクラップしている。


「何それ」

「『SUN』って言ってな……まぁあっちの東スポみたいなもんだ。

 モーテルの壁にキリストの顔が浮かび上がったそうだ。

 はは、救い主も意外と俗っぽいもんだな」

「……ヒジリさんさぁ、人の話まともに聞いてねえだろ」

「おお、聞いてるぞ。

 同級生の童貞狩ろうとして逃げられたんだな?」



 長いハサミを操り、およそゴミの山としか思えない紙を切り分けてゆく。

 イヌノを追い出した部屋に一人でいるのがうざったくて、無理言って押しかけたオレが

 文句言えた義理じゃない。








 ヒジリさんはなんだか機嫌よさげで、柔らかい香水の匂いがした。

 たぶん女と会った後なんだろう。


 てか、女か。




「ちげぇよ。生尺だってば」

「それで勇は落ちこんでるんだな」



 そうか、へこんでんのかオレ。

 ムカついてはいたけど、へこんでるとは思わなかった。



「なんかね、汚ねぇとか言われてんの。オレ」

「子供はな、言葉も暴力だと判ってないからな。

 殴られたと思えば腹も立たんだろ」

「やっぱムカつく」

「それもそうか」






 来てくれて嬉しかったんだけどな。

 嫌われてなくてよかった。とか、ほんと、思ったんだけど。













 あんなことがあって、今まで通りうまくやっていこうと思う方が無理なんだ。

 まぁいい。これで諦めもつくってもんだ。





「泊まってっていい?」

「それは構わんが、学校は?」

「制服持ってきた」

「親御さんが心配するだろ」

「うち、放任だし」

「義務教育じゃないんだ。自己責任ということを忘れるなよ」

「言われなくてもわかってるよ」




 あー、学校行きたくねえなぁ。

 同じクラスだとなぁ。嫌でもツラ突き合せなきゃならねえし。


「おお、忘れてた。

 まだ発売前なんだが、例の号できたぞ。

 お前のツレにも渡しといてくれるか」

「……だからさぁ、逃げられた相手がそいつだってば。

 ヒジリさん、人の話聞いてねえだろ」

「すまんすまん。よろしく頼むよ」



 ヒジリさんは笑いながらアヤカシ8月号を二冊オレに押し付ける。











 タイミング悪いことこの上ない。












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