「あーあ、失敗したぜ。
やっぱオマエなんか置いてあの記者さんについてきゃよかったな」
代々木のマックでポテトを摘み、勇は恨みがましく雑誌を開いていた。
「知らない人間にヒョコヒョコついてってどうするんだよ。
監禁されても知らねえぞ」
「はぁ?なんで監禁なんだよ。言ってることワケわかんね」
「もしもの話だよ」
まぁ実際は逆かもしんないけど。
「なんか不思議な人だったよな。
初めて会ったのにそんな気がしないし……。
記事もオレには難しいや。頭よさそな文章」
「どっちが声掛けたんだよ」
「は?」
「お前か、聖さんか」
「あれ?なんで名前知ってんの」
やば。
「月刊アヤカシだろ?毎号読んでるから。
ヒジリ記者っつったら結構名物記者でさ」
「へぇ……。そんな有名人なんだ、あのオヤジ。
人は見かけによらないねぇ」
嘘で誤魔化せると思ったら逆効果だった。
勇はいっそう感心と関心を深めたみたいだ。
「あっちから声掛けてきたんだ。
誰かさんが来ないからヒマでしょうがなくってさぁ。
どこで買った服かなって、ぼーっと眺めてたら何か用か?って聞いてきて。
気さくな人だと思ったら有名なライターなんだ。
なるほどなぁ」
「……有名ったって大したことないよ。
ただのオカルト記者だし。
ああいう人種は人に使われてなんぼだろ」
「はぁ? 何言ってんのオマエ。感じわりぃ。
一高校生が何様のつもりなワケ?」
お・ま・え・がそう言ったんだよ、勇。
おれはギリギリとストローを噛み締めた。
………なんか、おかしい。
東京受胎が起こる直前の出来事が繰り返されているんだけど、
微妙に時間軸がずれている。
知ってるできごとが知らない現在に繋がってて、
過去を知るだけにざらついた違和感がこびりついて離れない。
「勇、どっか行こ」
告白しに来たんだおれ。
ズレてんのは最初からなんだから。
この世界に帰ってこれて、勇がまた生きて笑っててくれて、
おれは泣きたいくらい幸せだったんだ。
今度こそ、あんな悲しいことを言わせたりしないように、
生きて帰ってこれたからちゃんと言おうって。
おまえが好きだってちゃんと言おうって。
告げるつもりの無かった気持ちを伝えようと初めて思った。
「今から?
どこ行くんだよ」
「どこって……どっか、ちゃんとしゃべれるとこ」
「今話せば?」
勇は冷めたポテトをつまみながら雑誌から目を離さない。
横の席では他の学校の娘が、でかい声を上げて笑っている。
勇がおれの目覚めを待ってたとき、
なんかすげぇ気持ちが通じているような気がしたんだ。
それはきっとラブとかそういう類のもんじゃないかと、
期待と予感があったから、告ろうという気にもなったんだけど。
でも、それもまたおれの勘違いなのかな。
また一人で突っ走って、勇に呆れられなきゃいけないのかな。
「勇………おれ、帰るわ」
「ん、じゃな」
勇はひらひらと手を振った。
早く帰れ、って言ってるみたいに。
空のシェイクとダブルバーガーの包みをゴミ箱に押し込み、
おれは勇を置いてマックを出る。
出るとき振り返ったけど、勇はまだ雑誌を見てた。
オカルトとか噂とか、そういや詳しかったっけ。好きなのかな。
今日は、きっとタイミングがちょっとばかりズレただけだ。
また明日から学校が始まる。
告るチャンスだってきっとある。
勇は気まぐれだから、そこんとこおれが計ってやんないとしょーがない。
世界が元に戻って、おれが人間に戻れて、勇が生き返ったんだから、
今日は人生最良の日じゃないか。
だから落ち込んだりなんかしないんだ。
勇がほんと、生きててくれてよかった。