「……それ、マジ?
カッパとか?」
「ああ、河童は見たことねえな。さすがに。
ツチノコなら山梨で見たけど」
「すっげぇ!
ね、太かった?太かった?」
「大したことない。
あれなら俺のほうがご立派だ」
「アッハッハ。
今の発言、オヤジくせぇ」
東入り口に戻る頃には日はとっぷり暮れていた。
愛しいあいつの声と、なんだか聞き覚えがあるような無いような……。
芝生の策に腰掛ける勇の横に、帽子を被った背の高い男が立っている。
「勇……」
「あ、イヌノ!
おっそーい!なんでオマエいっつもそんな遅いワケ?」
「ごめん……」
「いいよ、別に謝ってほしいわけじゃないし。
な、それよりすげぇ話聞いちゃった!
ヒバゴンって本当にいるんだってさ!スッゲェよな!」
なんの話をしてたんだ。
「ん?お前のツレか?」
男が帽子を取り、顔をあげた。
手首に巻いた数珠がじゃらりと鳴る。
そのファンキーな格好とムスク系の匂いで、それが誰だかおれにはわかっていた。
そういえば、今日はこの人もここに来ているんだっけ。
うっかり『お久しぶりです』と口走りそうになり曖昧な笑顔を返す。
勇も千晶も生きてるんだ。
ヒジリさんも生きてて当たり前なんだよな。この世界では。
「ツレっていうか……クラスメート?」
おいおい、なんかランクダウンしているんですけど、おれ。
「この人、オカルト記者なんだって。
おもしれぇよな。初めて見たよそんな人。
オレ、雑誌もらっちゃった。まだ発売前なんだって」
見るからに怪しそうな『月刊 アヤカシ』の表紙を勇が見せる。
おれが譲り受け、千晶に取り上げられるはずだった雑誌。
勇にぶっ殺されて、おれが助けられなかった男はニコニコとそれを眺めてる。
平和でよかったなぁと、喜んでいいはずの光景なんだけど、
なんとなく不穏な空気を感じるのは告りのタイミングを失ったせいだけなのか。
「リーク受けた暴動も結局無かったしな。
どうも今回ばかりは俺の記事もアテが外れたみたいだ。
ま、この世界じゃガセネタもよくある話だ。笑って許せや」
「笑ったりなんかしないよ。
嘘かどうかまだわかんないし」
「………そうか。
日も暮れたし、今日の取材はこれでしまいだな。
メシでも食うか?何が食べたい」
「え、ほんとに?」
「いえ、結構です!
取材お疲れ様でした!」
何か言いたげな勇の手首を掴み、おれは必死で拒絶した。
聖さんはいつもの苦笑いを浮かべ、
「じゃ。また会うことがあったら記事の感想でもくれよ」
あっさり引き下がる。