外はもう夜だった。
見送りもなく、おれは土地勘の無い住宅街に放り出された。
衝動的な怒りが過ぎ去ると、苦い罪悪感だけが胸に残った。
勇のあんな顔は胸に堪える。
でもなぁ、あのまま済し崩すわけにはどうしてもいかなかったんだ。
そして駅はどっちなんだ。
どこへ行けばいいのか。
どうしたらいいのかさっぱりわからない。
1時間ほどさすらって、ようやく聞いたこともない私鉄の駅に辿り着いた頃、
携帯が震えた。
………勇だ。
『………よぉ。今どこ?』
「……なんか、知らない駅」
『そっか……。無事着けたんならよかったよ』
「……………うん」
普段通りにしゃべろうとしている声が逆に痛々しかった。
なんか、言わなきゃ。
「…………」
『………………』
「…………勇、…その………」
『……さっきは、――……悪かったよ』
あの勇が、おれに謝るためにわざわざ電話くれるなんて。
「……いや、おれが………」
『あの、さ』
「………うん」
『――……オレ、ああいう言い方しかできないから、
理解しなくていいから――知っとけ』
「…………うん………」
『……………』
「……………………」
『……………………………』
「……………………………」
『………じゃ、そういうことだから』
「あ」
電話は切れた。
やっぱりあんなこと言うべきじゃなかったんだ。
今あいつのそばにいてやらなきゃいけない気がする。
今すぐ走っていけば、勇の部屋に走っていけたら――。
そう思い来た道を振り返るのだけれど、
見知らぬ路をどうやってここまで来たのかもうわからなくて、
嘆きと後ろめたさと、どうにもならない感情に、
おれはどうしても足を踏み出すことができなかった。
back top next