で、結局またやっちゃうわけだ。
缶ビールとか飲みながら、宇宙人の解剖ビデオ(すげえつまらなかった)
とか観せてもらって、なんかイチャイチャしてんな。
何が悲しくてヒゲのオッサンとラブい雰囲気になってんだろオレ、
と思ってるうちにそうなるわけだ。
……どうなのよ、コレ。
ノコノコ部屋まで来るんじゃなかったのかな、とか思ったけど、
まぁオレも、女の子が部屋に来たら、こりゃやんなきゃ悪いかなって気にもなるし。
ということは、オレも部屋に上がったからにはやらせなきゃ悪いのか?
て気にもなるし。
ジーンズの中にごつい手が入り、「俺としたかったか」って耳元で囁かれたとき、
したかったかどうかなんてわからないけど「うん」って答えた。
そう答えたら、本当にオレはヒジリさんとしたくて、電話して、
部屋にまでついてきたような気すらしてきた。
ヒジリさんもこないだみたいな酷いことはしなかったし、
オレももう逃げ出さなかった。
ヒジリさんのあれはでかいから、あの時はさすがに辛かったけど、
「慣れろよ」って言われてまた頷いた。
慣れろってことは次もまだあんのか?
「ライターってさ、楽しい?」
「なんだ、いきなり」
「いや、本がいっぱいあるから」
ベッドサイドまで本で溢れてる、仕事してますって感じのヒジリさんの寝室。
オレは腕枕に頭を預けたまま手を伸ばした。
適当にひっつかんだ表紙は洋書で、開いてもわからないそれを元に戻す。
「ま、仕事だからな。楽しいかどうかの問題じゃない。
好きなことを仕事にできたのは幸運だとは思ってる」
「ジャーナリストとかよく殺されてるだろ。
あんたも長生きできるようには見えないぜ。
英語できんだろうし、他に仕事もあるんじゃねえの?」
ヒジリさんは腕枕していた左手を締め、ヘッドロックしてきた。
「なんだ勇、心配してくれるのか?」
「いてててて……別に心配とかじゃなくてさぁ。
進路に迷うコーコーセーとしてはね?大人の意見を聞きたいワケよ」
「やれることとできることは違うもんだ。
俺にはこれしかないと知っている」
「いいよな、はっきりしてて。
好きなもんもやりたいこともないヤツはどうすりゃいいんだよ。
いやいや、オレのことじゃなくて、一般論としてさ」
「まあ、お前が決めることだ。俺がどうこう言う問題じゃない。
悔いさえ残さなきゃ、焦ることはない」
オッサンはそう言うけど、プリントの提出期限は明後日なんだよな。
でもま、確かにピロートークにする話題じゃねえか。
緩められたヘッドロックが背中に回り、ようやく汗の引いた体同士が密着する。
セックスはぶっちゃけまだよくわかんないんだけど、
終わった後のだらしない空気は好きだった。男とか女とか関係なく。
錯覚なのはわかってるんだけど、許されているような気になるんだよな。
鼻の下の短いヒゲを引っ張ると、閉じていた瞼がとろんと開いた。
「いかん、寝そうだ」
「眠そうだぜ。疲れてんだろ。寝ちゃえば?」
「そういうわけにもいかねえんだ。仕事が山積みだし、約束も……」
言いかけて、オレの手を掴んで外し忘れた指輪に目を留める。
「なんだ……これは」
「イカスだろ?アルケミーのスカルリング。
純正シルバーじゃないんだけどデザインが気に入ってさ。
シモキタ中探したんだぜ」
まだ眠そうな目でまじまじとオレの手を眺め、
「似合わねぇな、おい」
はははっと笑った。
「うるせえ!いいんだよ、好きなんだから」
「指がまだ幼い。こんなゴツいのつけても浮くだけだろうが」
そうかぁ?……わかんねぇなぁ。
オレの精液かヒジリさんのか、指輪は少しベタついていた。
右手を明かりに透かしてまじまじと眺めると、どうしてもイヌノの怪我が頭をよぎる。
包帯がまだ取れてない。後姿だけでいかに弱ってるかわかる。
いつ治るのか、話もしてないからオレが知るわけないんだけど。
どう考えたって自業自得なんだけど、テストも近いのにあいつどうすんだろ。
――いや、弱ってるのはオレのほうかもな。
色々回避したつもりで、友達を怒らせて、居場所また失くして、
だからこんなとこまでついて来て、ベッドにマッパで寝てるんだ。
オレを許さないのもアイツの勝手だしな。
まぁオレだって好きなようにやるさ。
急に無口になったことを気にしたのか、ヒジリさんが指を絡める。
「そのうち、もっと似合う指輪を買ってやるよ。骸骨以外でな」
「お、その言葉忘れんなよ」
「忘れんから先にシャワー浴びてこい」
と、ベッドから追い出された。
精子とか唾液とか汗とか、そんなもんをオレが全部流して出てくると、
ヒジリさんは上半身裸のまま、ベランダで煙草を吸っていた。
手柵の向こうでは少し弱くなった雨が降り続けている。
「借りた」
窓からタオルを放り投げると、ケータイ片手に部屋に戻り
「11時までには帰れよ、勇」
と、やたらそっけない言葉。
オレが風呂場を使っている間に、
空き缶やらティッシュやらはきれいにゴミ袋にまとめられている。
「いや、最初からそのつもりだけど」
ジーンズに足を通しながら、なるだけ何気なく尋ねる。
「彼――」
いや、女とか男とかは限んないんだよな、この人。
「恋人?」