発射寸前の膨張も、射精の奔流もすべて口腔で受け止め、尿道に残る最後の一滴まで吸い尽くす。

 口いっぱいに広がった濃厚なえぐみを、勇はゆっくりと飲み下した。

 保健室のベッドに精子一匹もこぼすまいと内心必死だった。




「……っと。ごちそーさん」

「はぁ……。やっぱすげえな、勇のウソブキは……」

「いや、違うから。普通のフェラだから」

「うがいしないの?」

「平気」



 終わってすぐ口を拭うのも悪いかと、人差し指の腹で軽く唇を撫でる。

 イヌノはまた感極まり、射精したばかりの唇にキスして「すげえヘンな味だ」と喜んでいた。



「おい、イヌノ。落ち着いたんならさっさと戻れよ。もう授業終わるんじゃないのか?」



 勇に促され、ハーフパンツをずり上げたイヌノは頭を掻きながらベッドを降りる。

 扉に向かい、出てゆくかと思えば、何食わぬ顔で内側から鍵をかける。



「お、おい。鍵なんか掛けてどうするんだよ?中にオレいるの祐子先生知ってんだぞ」

「……さすがにコンドームはないな」



 薬品棚を漁り、ニベアクリームのチューブを見つけて戻ってきたイヌノは、ベッドに膝を乗せ、申し訳無さそうに半パンを下ろした。



「………ごめん、勇。

 ぜんぜん収まらねえ」



 さっきとほとんど変わらず、イヌノの陽物は隆々と天井を向いている。



「じょ、じょ、じょ、冗談じゃねえぞ。

 学校でヤってるとこ見つかったら退学モンだってば!

 さすがに合体の最中に人来たらごまかしきれないって!」

「大丈夫。学校辞める時はおれも一緒だ」

「オレを巻きこむんじゃねぇ! 学歴より大切な何かを失っちまう!」

「あんま騒ぐと人が来るぜ」



 掌で口を塞がれ、勇は恨みがましくイヌノを睨んだ。



「勇だって」



 勇の足を割りながら、お預けされたまんまの勇の股間を膝で刺激する。



「……っ!」

「………このまんまじゃ辛いよな。

 大丈夫、勇が嫌なら入れたりしねえから」



 口を押さえられながら濡れたハーフパンツと下着を下ろされ、上は体操着のままで足を開かされた。

 垂れ流しの淫露が、太腿と穂先の間を透明な糸で繋いでいる。

 自分の逸物を勇のそれを重ね。ぬらつきを広げるようにまとめてしごきあげた。



「んーっ!」



 直に触れられる強い刺激に、勇の腰がぴんと突っ張る。



「やだっ……やだっ…っふ」



 手を逃れた唇が今度はイヌノの口で塞がる。

 勇は力なく抗いながら、射精欲と羞恥と理性の揺れ動きでほとんど疲弊しきっていた。

 右手で前の牡らを弄りつつ、左手は背中から最奥へと進み、先ほどほころびかけた肉窪を撫で擦る。



 中途半端に餓えを呼び起こされた肉門は、今度こそ刺激を逃さぬように、勇の意思とは関係なくひくひくとイヌノの指先に絡みついた。

 イヌノに抱きつくように膝を開き、尻肉の奥まで晒し、だらしなく発情しきった自分を、勇はぼんやりと自覚していた。

 この姿を誰かに見られるくらいなら死んだほうがマシだと思いつつ、淫らな快楽を加える恋人の腕を、どうしても解くことができなかった。



 にゅるっと、異様にぬめる指が入ってくるのがわかる。

 備品のニベアクリームをイヌノが後孔に塗りこめていた。

 立ちこめる性臭に甘い香料が混ざる。

 太い指が二本、身体の中に押し入ってくる感触。



「うぁ……だめぇっ……お尻やだぁ………っ!」



 押し殺した声で勇が啼く。

 中の敏感な部分を擦られると、もうどうしようもなく自分が自分でなくなってしまう。



「やだっつっても……腰、動いてるぜ」



 耳を甘噛みしながらイヌノが囁く。



「ち……がぁ……」



 イヌノの杭に押しつけるように腰を揺すっていること身体が、まるで自分のものではないようだと勇は思った。



「とまんねぇんだよ……っ、あ、だめ……ぇ…っ。おかしくなる……」



 勇が絶頂を求めて首に縋りついたとたん、イヌノは愛撫の手をどちらも止めてしまった。



「あ……。…な…なんで……?」



 直前の解放を差し止められた勇は、つい不満げな声を上げてしまう。



「勇、いきたかったの?」

「………べつに…」



 イヌノは重ねていた男根を解放し、勇の尻溝にそれをあてがった。



「は………ぁ」



 貫かれる予感に勇は身を固くする。

 ラテックスをまとわない、抜き身の肉と交わるのは初めてだ。



 ――くる。



 鈴口に期待がぷくっと珠を作り、涎の代わりにたらりと垂れ落ちた。



「あ……入れちゃ…だめだってば……」



 最後の理性でそう言ってはみるが、その文句は勇自身にも甘いねだり声にしか聞こえない。

 イヌノにしがみつく肉体は欲情しきって、太くて固いもので貫かれることしか考えていないかのようだ。

 ぬりっと、先端がわななく粘膜に触れる。



「ぅあぁ……っ」



 が、ペニスはひくつく秘蕾を通り過ぎ、ただ勇の尻肉の境を性器の代わりに擦った。



「……ばかぁ……なんでいじわるするんだよっ……」



 勇は泣きそうになりながら尻を振るが、肉の狭間をぬめるばかりでどうにもならない。



「欲しい?」

「やるんならさっさとしろよ……っ。先生来ちゃうよ……」

「欲しいって言えよ、勇。

 おれの“貫通”入れてくださいって言って」

「……っ、言うかバカ」

「じゃあいいよ。素股でいくから」



 持ち上げた足を交差させ、鼠蹊部の隙間に熱い欲望をねじこむ。

 そのまま揺さぶると、他人の感触と鈍い快感だけが与えられ、押さえつけられた足を開けずに、勇は切ない息を漏らした。



「……ばかぁっ…!イヌノのばか……!死んじま……ひぐっ」



 前触れも無しに先端が潜りこみ、物欲しげな孔が肉冠にきしんだ。



「……死んじまえ……っ」



 その位置を保ったまま、イヌノは小刻みに腰を揺する。ハンドクリームの滑りを借りて先端が入りこみ、またすぐ抜かれる。



「ひ!」

「素直になんねえと辛いぜ」

「……っ、なんでよりにもよって今そんなこと言わなきゃいけねえんだよっ!」

「……勇エロいだもん」



 勇自身からはしどとに淫露がこぼれ続け、めくれ上がった体操着の裾と、勇の薄い腹をべったりと濡らしていた。

 後孔は絶え間なくひくつき、早く満たしてほしいと訴える。



「は……早くしろって……」

「も、もうちょっとそれらしく」

「……やだ……………」

「くそっ。 勇はこんなときすら強情だな!」

「あっ、あっ、あっ、やぁっ!」



 胸の突起をまたねじり上げられ、勇の切なさが最後の砦を越す。



「も……やだ……入れろよ……入れて……頼むよ……っ…お願い……」

「お願いします、だろ」

「うるせええええええええええええっ」

「うん……まぁ、いいか……。ごめんな、生だけど」

「くぅっ!!」



 猛りきった肉の楔がぐぐぐ、と入ってくる。

「あ。あ。あ。あ」



 ――貫かれる。



 ぎちぎちの充足感に、淫らな悲鳴を上げそうになり、勇は自分の口を塞いだ。



「あ……生、すげえ。勇の中火傷しそう」



 ぎっちりと咥えこむ入り口の感触を味わいながら、イヌノがゆっくりと腰を揺すり出す。



「んぅ!? くぅっ!うぅっ!!」



 さんざ焦らされた反動か、背徳感か、淫孔を擦る快感が普段と比べものにならないほど強い。

 すっかり性器と化したそこが持ち主を翻弄した。



「――ど……しよ……。すげ……すげぇ……っ」

「なんか……勇の締めかた、やらし……」



 絞りこむように食いつく淫肉に、圧し掛かるイヌノが大きく喘いだ。

 強めのストロークを一、二打撃ちこむと、勇がひっと息を詰め、パイプベッドがギシッギシッと傾ぐ。

 イヌノが腰を止め、カーテンの向こうの廊下を気にした。



「……さすがに外に聞こえっかな」

「やだぁ……止めないで……」



 腰を使おうとする勇を押さえつけ、イヌノは埋めた剛牡を引き抜く。



「なんで抜くんだよ……ばかぁ」



 恨みがましい目を向ける勇の腰を持ち上げると、膝が胸につくほど身体を曲げさせた。

 膝を肩に担ぐと、改めて真上から肉の杭が突き刺さる。



「か……………」



 深い。

 どこまでも穿たれていく感触に勇が身震いした。



 抱え上げられた腰が勇の目の前にあった。

 はちきれんばかりの自身の後ろ、自分の双球の狭間が、男のものが深々と飲みこんでいるのが見える。

 快楽の源泉を目の当たりにしても、自分の“ここ”が男を受け入れていることが未だ信じられない。



 ――本当に……こんな太いのが入ってるんだ……。



 羞恥に吐息を乱しながらも、勇はそこから目を離せなかった。

 イヌノが恐る恐る動き出す。太く張った肉が、ぐっと引き抜かれ、また肉の中に沈みこむ様が全部見えた。

 上から押さえつけるようなグラインドに、パイプベッドの軋みは減ったが、代わりに勇が悲鳴をあげる。



「うぅーっ!うーっ!」



 口を塞いでも抑えきれるものではなかった。

 ゆっくりとイヌノが動く度に、固い槍先がきつい角度で勇の性感を深くしごく。

 がくがくと震える腰はイヌノに押さえつけられ、代わりに腹筋が激しく波打った。天井を向いた足の指先がぴんと反る。



「勇……締めすぎ」

「や……これやだぁ……感じすぎる……って」

「こ……うしないとお前暴れっだろ」



 イヌノの雁先はゆっくりと、しかし確実にウィークポイントを力強く擦った。



「ひぃっ!だめ……やめ……っ!すげ……あぁっ!!」



 勇の首が枕の上で激しく揺れる。

 周囲を気にする余裕を失した勇の口を、逆にイヌノの掌が押さえた。

 少しずつ動きを早め、勇の淫らな反射を全身で味わう。



「は………勇、すげえエロい顔………」

「ぐぅーっ! うーっ!!」

「聞こえてんのかな……」



 速まる抽送に、勇は髪を振り乱してよがり泣いた。

 イヌノは自身を慰めようとする勇の右手を目ざとく見つけ、結局口を塞ぐ手を離してそれを押さえる。



「やぁ……いじらせろよ……っ!」

「だめだよ。

 勇、前触るとすぐいっちゃうじゃん。お尻だけでよがってるとこ見せてよ」

「やだ………これやだ……このままじゃ……っ!」

「声でかいって」



 両手を押さえつけ、上からぐいぐいと腰を使う。



「きひっ!」



 白い顎が仰け反って天井を向いた。



「だめ……イヌノ……っ…このままじゃオレ……お尻でいっちゃう……!」



 勇の哀切に呼応するように、肉孔が激しくひくつき、きちきちと締め上げる。



「うん、見せて。

 やらしい勇がお尻でいくとこ見せて」

「やだ…こわいよ……!

 感じすぎちゃうからやだってばぁ…!い…じらせて……」

「やだ」

「お尻でいくのやだぁ……っ!」



 二度目の余裕があるイヌノは、余裕のない勇を淫靡な愉しみで追いつめる。



「あ……っ…ちっくしょ……イヌノてめぇ覚えてろよ……っ!あぁぁっ!」



 追いつめられている側は、不自由な腰をわななかせながら、迫り来る悦楽を必死で堪えていた。

 が、そんなあがきも肉に負け、押さえつけられている手指がぐっと曲がった。



「いく…いや…いく……だめ…出ちゃうぅっ…!飛び散っちゃうの止め……ッ!!」



 弛緩した次の瞬間、組み敷かれた勇の腰が大きく跳ねた。

 イヌノが慌てて叫ぶ口を両手で塞ぐ。



「ん――!?ぐぅぅっ!うっ!うぐっっ!!うううううううううううッ!!」



 声にならない悲鳴を上げ、天井を向いた腰が激しく痙攣する。



「――ッ!!!!」



 全身の穴が開くような深い絶頂が、長く狂おしく勇を貫いた。

 淫らにあえぐ腰にあわせ、びゅるっびゅるっと大量の白濁が何度も滴った。

 勇の顎から下腹部までを多量に汚す。



「うぁっ!」



 勇の墜頂を見届け、イヌノもまた高まりを内部に放出する。

 ひくつきの止まらない肉の最奥まで突き入れ、勇を直に染め上げる悦にたっぷり浸った。



「うぁ……イヌノぉ………ぁ……ぁ……」



 熱い脈動を内に受け、勇の身体がもう一度ぶるっと震えた。



「勇……うん、すげえ好き……大好き。やらしいとこも全部好きだ……」



 抱えていた腰が下ろされ、イヌノは名残惜しげに自身を引き抜く。



「……あ………抜けちゃ…ぅ……」



 くぷっと引きとめた花弁との間に白い糸が伝った。