今受胎が起こっても悔いはない。

 そんな満足げな表情で、イヌノは勇の脇に寝転がる。



「あー……気持ちよかった……」



 精魂果てた勇が、天井をぼんやりと眺め、



「こんなところでイチャイチャと……何やってるんだろうな……オレたち……」



 しみじみと嘆いた。




「ほんとだなぁ」

「疲れた………」

「あー。 さすがに保健室をラブホ代わりにしたのはまずかったよなぁ。

 ごめんな、勇」

「謝るくらいなら最初からするなよ……」



 勇は精液まみれになった体操着を脱ぎ、備品のウェットティッシュで乱暴に身体を拭った。

 そのまま捨てることに気が引け、さらにティッシュで包んでからゴミ箱に捨てる。

 未だ呆けて余韻に浸るイヌノを小突き、ズボンを履くように促した。


「……あとでコンビニでパンツ買ってこい。ポカリもな。

 午後の授業出る元気もうないから、教室に置きっぱの鞄も持ってきて」

「あ、うん」


 真っ裸の勇は、素肌の上に直接ジャージの上下を身にまとう。



「オマエのせいだからな、イヌノ。下着はオゴリな」

「おれの趣味で選んでいい?」

「コンビニで何買うつもりなんだよ! フツーのにしろフツーのに!」

「こないだインターネットでさぁ、すげえの見つけちゃって」

「思う存分自分で履け!

 あと、窓ちょっと開けろ」

「え?寒くね?」

「……匂いこもってそうでやなんだよ。わかんねーけど。

 あー、風呂入りてぇ」

「あー、気持ちよかったなぁー」

「……オマエは元気だなぁ。オレもうぐったりだよ」

「勇、やっぱ熱ねえか? 体温計で測ったほうがいいよ。

 突っこんだときいつもより」

「あーあー。言わなくていいから言わなくていいから。

 気づいてんなら途中で止め………あれ?」



 気だるい身体を横たえようとしたとき、白いシーツにべったりとついた血に気づく。



「なんだこりゃ」

「え? 血? い、勇ケガしたのか?

 ご、ご、ご、ごめん。ごめん勇」

「いや、オレじゃないって。こんな出血したらすぐわかるし……あ」



 擦りつけられて広がった赤い染みの横に、剥がれた絆創膏が丸まっている。



「オマエの膝だ。取っ組み合ってるうちに取れたんだな、バンソウコ」



 勇の熱を測ろうと、体温計を持ったまま固まっているイヌノが自分の膝を見た。



「あ。ほんとだ」



 傷口に乾いた血がとっくにかさぶたになっている。

 痛みにも気づかないほどに耽溺していたらしい。



「コレ………このままにしといたらヤバイよな」

「毛布掛けとけばわかんないじゃないの?」

「ノンキだなオマエ……。元はと言えばオマエが悪いんだぞ」

「ごめんなさい」

「――なんかこれさ」



 勇は肩をすくめて、少し意地悪く微笑った。



「? 何笑ってんの勇」

「お前が破瓜したみたいだな」










                                          END