「おっそーい!」
「………何かあったの?」
おれたちはモリ子(仮)とカハ子(仮)を挟んで離れて座った。
戻ってきてから口も利かないおれたちを、二人がそれぞれに気にかける。
途端に勇は笑顔になり、いつもの調子で喋りまくった。
「いやぁ、花火って正面から見ないと丸く見えないだろ?
この席本当に正面なのか気になって、角度チェックしてたら遅くなっちゃってさぁ」
おれは黙ってホテトフライを食っていた。
おれたちが戻って来ない間、女二人も色々と話していたんだろう。
モリ子(仮)が申し訳なさそうにおれに切り出す。
「……あのさ……あたしたち帰ったほういくない?
なんか小林くん……怒ってるみたいだし……」
フォーモリアによく似たつぶらな目が今にもフガフガ泣き出しそうだ。
突き出た胸と腹を浴衣の帯で押さえ、たぶんせいいっぱいおめかししてきたんだろう。
勇に遠まわしに告っては、その度に玉砕していた自分の姿がその巨体と被る。
つきあうつきあわない以前に、おれはやっぱりこの女子がフォーモリアにしか見えない
のだけれども、さすがにここで帰れと言えるほど鬼にはなり切れなかった。
「……いや、別に怒ってないよ。
せっかく花火見に来たんだから、最後まで見ていきなよ」
「………ェヘ」
恥かしそうに頷く巨体の一つ向こうで勇はそっぽを向いていた。
引き止めたら引き止めたで面白くないのだろうか。
いったい勇はどうしたいんだろう。
「そんでヒバゴンって本当にいるらしいんだけど、
証拠写真のさぁ、背中にあるの、どう見てもファスナーなんだよね」
「ヒバゴンってなにぃ?」
「あれ?知らない?
まぁネッシーに比べたらマイナーだしなぁ。
オレも人から聞いた話なんだけど、
広島の比婆山ってとこでこれっくらいの生き物がさぁ……」
勇の上滑りなしゃべりを聞き流しているうちに、やがて本格的な打ち上げが始まった。
金色のスターマインが次々と打ち出され、夜空いっぱいに光点を落とす。
音と光に会話は途切れ、おれたちはそれぞれの思惑を胸に夜空を見上げていた。
「たまや〜!」
一際大きな六尺玉が弾け、手をメガホン代わりにした勇が叫んだ。
モリ子(仮)がモリモリと不思議そうな顔をする。
「たまやってなにぃ〜?」
「知らねぇ〜〜〜!!」
おれは芋を咥えたままちょっとだけ笑った。
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