3年に上がってクラスが離れてしまったのは、裕子先生の陰謀じゃないかとおれ
は未だに疑っている。
千晶とはとうとう三年間一緒の組で、これはたぶんなんかの呪いなんだろう。
夕べのことを問い質すために、授業が終わると同時に隣の教室に走った。
勇はおれに気づくと携帯から目を離し、いつもの調子で片手を上げる。
「よぉ」
よぉ、じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。
「……どういうつもりだよ」
「何が?」
「何がじゃねえよ。なんでいなくなったりしたんだよ。
おれ、モリ子(仮)の歌20曲連続で聴かされたんだぜ!」
「だから、モリ子って誰よ」
昨日、勇はおれの目の前で女とバックれた。
4人分の部屋代を払わされた上に携帯はさっぱり繋がらず、
おれは一晩中勇からの連絡を待ち続けた。
だけど来たのは
『今日は超★超★超★楽Uかったょ!絶対また遊ほ〃ぅね〜!』
というフォーモリ子(仮)からのメールだけ。
「なんか、カラオケ歌う気分じゃなくなったから、帰った」
「女と二人でかよ!」
「声でけえよ、バカ」
人目を気にする勇の腕を引き、おれは縁の切れた部室の裏へと連れ出した。
「……ここなら、テスト期間は人こねえから」
「なぁ、もう帰ろうぜ。暑いしさぁ」
「……おれのメアド教えたのお前だろ。勇」
「いやなんか聞かれたから」
「なんでそういうことするんだよ」
「いいだろ、別にメアドくらい」
勇は悪びれもせずに生あくびをしている。
「昨日あんま寝てないんだわ、オレ」
「………」
「で、あれからどうした?」
けろりとそんなことを訊いてくるもんだから、おれも息が荒くなってしまう。
女と消えて寝不足ってどういうことだよ。
いらない想像が頭をぐるぐる回る。
「そりゃこっちのセリフだよ!」
「告られたか?」
「なんで告られなきゃならねえんだよ!延々と怪音波聴かされたんだぜ!?」
「……ふーん」
「勇こそあの女とどこ行ったんだよ!」
「別に。
オケ屋出てちょっと話してすぐ別れた」
「……嘘つくなよ」
「まぁ、信じないのはオマエの勝手だけど」
信じられるかっつうの。
なんでおれと一緒にいるときに他の子と消えたりできるんだ?
「――二人ともいい子だったな。オマエ、あの子とつきあえば?」
「なんでそうなるんだよ……」
「……まぁ、そのニブさがお前の長所かもな」
「何が?」
「なぁ、オレもう帰っていいか」
「待てよ勇」
ほっとくと今にも消えそうな勇の腕を掴み、おれは声を潜めて勇の目を見た。
「おれたち、……つきあってるんだよな」
「うん」
勇はつまんなそうに運動靴の汚れを気にしている。
開いた胸元に汗が光って流れていた。
「だったらさ、おれといるのに女と消えたりすんなよ!
もうわけわかんねぇよ!何考えてんだよッ!!」
「はぁ?
声掛けたのオマエだろ?ちゃんと最後まで面倒見ろよ」
「それはお前が……!」
「じゃあ何か?
お前はオレの命令なら、その女ともやれるってのか?」
勇が鼻で笑った。
考えるより先に、おれは勇の胸倉を掴んで部室の壁に押し付けていた。
怒りで顔が青褪める。
他の何を我慢できても、この、人を試すような勇のやり口だけは未だに慣れない。
「………おれのこと試すのが……そんなに楽しいのかよ……ッ!」
勇は別段怯えも謝りもせず、されるがままにおれの顔を見上げていた。
「………なぁ、イヌノ」
「…………」
「オマエ、おれと別れてあの子とつきあえ」
「……………」
「その方がいいと思うぜ。
オレにも、オマエにとっても」
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