歌広だけは異常に嫌がる勇に連れられ、結局隣駅のカラオケ館に行った。
男女交互の合コン座りってだけでげんなりするのに、おれに聞こえないようにして、
勇とカハ子(仮)がたまに耳打ちしあっている。
気に食わねえ。
「小林くんってぇ〜無口なんだねぇ〜〜。ひょっとしてクール系気取りなのカナ〜?
ギャハハハハハ!」
そしてなぜフォーモリ子(仮)はこんなに馴れ馴れしいんだ。
「バンプ入れたの誰ぇ〜?」
「あ、オレオレ!」
「あたしね、着メロぉこれにしてるんだぁ」
「マジで?オレたち気が合うね」
オレ以外の3人はほんと楽しそうで、勇なんておれと二人でいる時とえらい違いだ。
そりゃおれだって勇が楽しそうなのに越したこたねえけど、
おれと二人でいてもやっぱつまんねぇのかなぁとかへこんでくる。
来週は期末だし、おれだってこんなことしてる場合じゃないだけどなぁ。
「ボケっとしてないで、イヌノもちゃんと歌うんだぞ。何入れるんだよ」
「………じゃあ、ズンドコ節を……」
「……せっかく女の子と一緒なんだからもっとフツーのヤツにしろよな。
ほら、こないだ歌ってたアレ、なんだっけ」
「HYの?」
「おお、それ歌え。何番だっけ?」
「次勇くんのうた〜」
「お、サンキュ。
このマイクさぁ、ハウるからエコーもうちょっと下げたほういいかもよ」
でも、ま、息抜きも必要か。
勇最近ずっとイライラしてたしな。
マイクを握る勇の手元を見ていたら、あのときの手つきをどうしても思い出してしま
い、あやうくちんこが勃ってきてしまった。
女の子たちに知られないように、歌本を股間に置いて拍手でごまかす。
ああ、どうせ勉強できねえなら、早く帰って勇とイチャイチャしてえなぁ。
「ちょっとトイレ」
そんな調子のまま、4曲ほど回ったとこで勇が席を立った。
ちょうどいい。なんか口裏合わせてそろそろ帰りたい。
「あ、おれも」
と、腰を浮かせたら、ガラの悪いカハ子(仮)がおれを押しのけて先に席を立つ。
「あたしも連れ便〜」
「マジで?気が合うね」
「てか新田くんて尿意近くねぇ?ぶっちゃけ年寄りじゃん?」
勇とカハクが何やら笑いながら扉の向こうに消えた。
追いかけようかと躊躇するおれの袖をフォーモリアがのほほんと引っ張る。
「次ねぇ、小林くんのばん〜〜」
モニターではHYのイントロが今まさに始まったところだった。
勇が戻ったらもう帰ろう。
そんでおれの部屋だか勇の部屋だか行こう。
その場にいない勇に向かって、おれはAM11:00を情感たっぷりに歌い上げた。
ところがおれの歌が終わっても、
フォーモリ子(仮)の浜崎あゆみメドレーが終わっても、勇たちは戻ってこない。
…………。
……いや、まさかこのままバックレるわけがない。
いくらなんだってそれじゃあんまりだ。
おれはリズムの合わない手拍子をしながら勇を待った。
勇を信じて待っていた。
――けれど、
フォーモリアのモー娘。が終わっても、
フォーモリアの上戸彩が終わっても、
(ようするにフォーモリアはマイクを離さなかった)
カハクも勇も戻ってこなかった。
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