コンビニで立ち読みして涼んで、ガリガリくんをかじりながら夜が明け始めた道を歩く。

 朝焼けに長い影が伸びるのが面白くて、おれは横を歩く勇の手を取った。



「やめろって。……外なんだしよ」



 途端につれなく振り払われる。

 手を繋いでコンビニに行く仲良しカップル、というものに漠然と憧れていたおれは

 ほんの少しだけ傷ついた。



「こんな夜明けに誰も見てないって」

「ラジオ体操するオヤジだっているんだ。誰が見てるかわからないだろうが。

 大体オマエはいつも人目気にしなさすぎるんだよ。

 こないだのオケ屋だって、店員絶対気づいてたぜ」

「オケ屋って、4人で行った時?」

「……その前に二人で行った歌広」

「ああ、ちょっとイチャついてただけだろ」

「ちょっとじゃねえよ!

 パッ……パンツの中にまで手ぇ入れるのはやり過ぎだろッ!!

 オレ扉の向こうの店員と目が合ったんだよ! もう二度とあの歌広行けねえよ!」



 朝っぱらから、大声でパンツの中と叫ぶほうが人呼ぶと思うんだけどなぁ。



「大げさだなぁ勇は。

 カラオケでイチャつく高校生なんて別に珍しくないって」

「いや、男同士は珍しいだろ」

「だってさ、個室に勇と二人っきりでいたら、やっぱ触りたくなるじゃん」

「TPOをわきまえろって言ってんだよ!!」



 顔を赤らめて叫ぶ勇を、新聞配達のバイクが追い越してゆく。



「……ごめん。おれニブイみたいだけど、なるべく気をつけるよ」

「……神社の脇通って行こうぜ」

「遠回りになるけど」

「あそこならあんま人通らなそうだろ」





















 境内と駐車場の隙間、ほんの数十メートルばかりの距離を、二人で手を繋いで歩いた。





「やっぱ海行きたい」





 休みの間に、どこのオープンキャンパスを見に行くかという話の途中で、

 勇が唐突に行楽に気を散らす。



「夏季講習と補習と家庭教師どうするんだよ」

「いいだろ、別に。一日くらいサボってもさ。

 受験生だからって息抜きしないとやってられねぇよ」

「……まぁ、夏休みだしなぁ」

「な?そうと決まったらさ、水着買いに行こうぜ。

 こないださぁ、オシャレな水着見つけたんだよな。股間にオニの絵がついたヤツ。

 きっとイヌノに似合うと思うよ」

「……なぁ、それは本当にオシャレなのか? おれ騙されてないか?

「んーだよ、オレのセンスにケチつける気かよ」

「い、いや、そういうわけじゃないけど」

「あ」







 勇が急に立ち止まり、駐車場のフェンスに絡まる朝顔をしげしげと眺めた。

 薄青い空気の中で気の早いセミが鳴き始めている。今日も暑くなりそうだ。







「そっか」

「どうしたの?」

「すっかり忘れてたけど、もう夏なんだな」


















                                          S u m m e r  g a m e.













                                               END















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