締め切っていた窓を開けると、生ぬるい風がわずかばかりに吹き込み、
汗だくの身体に心地よかった。
上に乗っていたおれが退いても、勇はまだうつぶせたまま、枕に顔を埋めて
犬のように荒い息を吐いている。
白い背中に汗が溜まりを作っていた。
冷房も無く閉じた部屋でするセックスは、ほとんどサウナの中でやるそれだ。
窓くらい開けたほうがいいんだけど、声がどうだの音がどうだの、
神経質な勇は締め切るまで首を縦に振らない。
「大丈夫?」
声を掛けても返事が無い。
枕の上で首がこくこくと動いた。
マッパのままベッドの端に腰掛け、大学ノートで扇いでやる。
髪の毛が汗で張り付いた襟足を拭うと、勇がくすぐったがって身をよじった。
面白がって耳を触ると、掠れた声でベッドの上をゲラゲラ笑い転げる。
花火大会の後、もう遅いからとうちに誘うと、勇はおとなしくついてきた。
暑いから寝付けないのを言い訳にして、ベッドの上でいちゃついては合体し、
ちょっと話して、うとうとし始めた勇に淋しくなったおれがちょっかいを出し、
またいちゃついて(※以降繰り返し)
……まぁ、そんな感じだ。
おれは何度も窓を開けたり閉めたりした。
「……オレなんかの、どこが好きなの?」
「え?」
股間をウェットティッシュで拭っていると、唐突にそんなことを聞かれ、
おれは間の抜けた格好のまま少し考えた。
勇はこちらに背を向け横たわったままだ。
「一見サバサバしてるのに、中身ドロドロしてるとこ」
「………なんだよそりゃ。 全然嬉しくねぇんだけど」
「そいつのいいとことか、顔とか、わかりやすいとこ好きになるの簡単だけど、
おれは全部丸ごと愛してっから」
「ハハ……バカみてぇ」
「そ……そうかな」
「物好きだよな、オマエも」
「勇は?」
「なに?」
「勇は、おれのどこが好き?」
勇はめんどくさそうに寝返りを打って、困惑した顔をこちらに向けた。
授業中に先生に指されて、答えがわかんないときと全く同じ表情だった。
「…………顔?」
「あ……そう。 ……うん……まぁ……いいか」
「まぁ、女子が一目ボレする気持ちはわからなくもないかな。
あーあ、なんでオマエばかりがモテるかねぇ」
すっかりぬるくなったポカリのペットボトルを二人で回し飲み、
やっと身を起こした勇が、ベッドの惨状を見てまた笑った。
「うわ。 すげぇな、これ」
シーツには二人分の汗やら体液やらが、くっきりとヒトガタを作っていた。
「……このシーツ、おばさんに洗わせるのか?」
「………夜中のうちにこっそり洗濯機回しとくよ」
「なぁ、なんでオマエの部屋って、パソコンあるのにエアコン無いんだよ」
「高校入ったときのお祝いでさ、パソコンとエアコンどっちがいいかって、母ちゃんが」
「……暑さでパソコンイカれたら意味ないんじゃない?」
「…………そのうちバイトして買うよ。
パソコンはともかく、勇がひっくり返ったら困るし」
暑ぃ暑ぃと文句を言いながら、ベッドの端に腰掛けたおれに勇が身を寄せてくる。
おれはまたムラムラと触りたくなる衝動に抗いながら肩に腕を回した。
「……あのさ。夜とか、あんまキツかったらオレの部屋に泊まりに来いよ。
こんな暑かったらオマエ、眠れないだろ」
「勇の部屋に?」
「まぁ……エアコンあるし。ここよりはマシだと思うぜ」
「今年の夏、暑いらしいよ。 そんなこと言ってたら入り浸りになるって」
「オレは……構わないけどな」
それは……別の意味で寝不足になりそうだ。
「あー、暑ぃ!もう限界!」
悶々としている間に勇は腕をすり抜け、おれのTシャツとハーパンを身にまとう。
「もう一回風呂借りるわ。 オマエも汗流したらコンビニ行こうぜ。
さすがに腹減ったよオレ」
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