「少し眠りたい」
黒い太陽へ向かう塔の途中、頂まであとわずかだというのに、
神様が足を止めても異議を唱えるものは誰もいませんでした。
方舟を得た神様の心はとっくに閉じていて、
私たちの誰の言葉にも動かされないことを皆が知っていました。
孤独への使徒は増え続け、皆無口だったので、一行はさながら巡礼のようでした。
いえ、巡礼そのものでした。
なんとはなしに付いてきたもの。
神様を生まれて初めてできた親友のように思うもの。
途中で悪態をついて離れ、また思い出したように帰ってくるもの。
心酔しきったものたちもたくさんいました。たとえば私のような。
「ここで休む。誰も通さないでくれ。
――ただ、あれが来たら」
「わかっています」
「別に見張りなんかいらねぇよ。好きにすればいい」
「好きにしています」
「…………そうか」
神様は待っていました。
世界を閉じるために葬りさらなければならぬもの。
訪れれば開かなければならない最後の扉を。
「あいつさえいなきゃなぁ」
重い扉の向こうへと方舟をくゆらせながら神様が呟きました。
「オレは一人でいることなんて全然平気なのに」
私は自分の意思でそこにいました。
待ちながら、神様のことを考えていました。
やがて彼が来て、神様を殺したその後も、
ずっと神様のことを考えていました。
黒い太陽が堕ちて、もう一度世界が終わるときもずっとそこにいて、
神様が創れなかった世界のことだけを考えていました。
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