彼の部屋は東通りのアパートメントだ。
ここに住むエスニックは彼一人。
家具は備え付けで、必要最低限のものだけがある。
言い換えればあとは何もない。日本のそれと比べるとだだ広くて彼は困惑する。
ヒーターは古くてなかなか部屋が暖まらない。
買ってきた日本の雑誌とNYタイムズをベッドの上に投げ出し、自分はコートを着たまま寝台の足元に座り込んだ。
求人欄をパラパラとめくり仕事を探すふりをする。
この地に居続けるつもりならば。新しいビザと職が必要だ。
留まる理由は無いが、帰る理由もない。中途半端なまま時間が終る。
"検事、御剣怜侍は死を選ぶ。"
気取った手紙を残した手前、何も得ずに帰るのが恥ずかしい。
いや、気取ったつもりも実はない。死ぬつもりだった。
縊死か投身が一番楽だが、自分が検分した死体を見るにどちらもあまり見栄えのよいものではない。
二十歳の頃からの貯蓄が誰に残すあてもなく手付かずなことを思い出し、
せめて使い切って死のうと飛行機に乗り込んだところで、自分が自死にまるで不向きなことにようやく思い至る。
一人の検察官がいなくなり、彼の肩書きは無職の旅人なのだから嘘をついた訳でもないのだろうが
ならば今ここにいる男は誰か。
まるで眠くは無かったが夜も遅いのでメラトニンのタブレットを流し込み無理矢理にベッドに入る。
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