この都市には約一千二百万の人間が住んでいる。その人種はほとんどが日本人で彼もその中の一人だ。


彼の部屋は駅から十五分、築十年のマンション。フローリングの2DKが彼の城だ。

ベッドといくつかの家具を置けばいっぱいの部屋。

今の収入とスキルから比べれば、そこはとても慎ましい城だった。

ギリギリまで事務所で働き、帰れば眠るだけの日々。この部屋で充分だと彼は思っている。



出張ヘルスのチラシだらけの郵便受けから、銀行からの振込み通知を見つけポケットに詰め込む。

ユニットバスに湯を張りながらネクタイを緩め、缶ビールを煽りながら深夜のニュースを観る。

首都高でダンプカーと乗用車が正面衝突。家族五人が全員死亡しました。

彼は残高が増えているのをつまらなそうに眺める。

いつもの一日がいつものように終ろうとしている。



風呂が満ちたにも関わらず、彼は疲弊しきって長椅子から動けない。

せめてズボンを脱がなければ皺になる。

窓の外で物音がした。窓に何かが当たる音。彼の部屋は二階だ。

立ち上がって外をみると近所の飼い猫がベランダ沿いに通りかかっただけ。

風呂は朝入ることにして、彼は服を脱ぎ散らかしそのまま気を失うように眠る。






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