この都市には約七百三十万の人間が住んでいる。
人種はアングロサクソン、スパニッシュ、ゲルマン、アフリカン、
アイリッシュ、ユダヤ人、コリアン、ゲルマン、中国人………等々。
彼は二万人以上いる日本人の中の一人だ。
人々が距離を置きながらすれ違う西通り、
信号に追われている彼は自分が人種的マイノリティであることを自覚している。
クリスマスを急ぐディスプレイに街は沸き立つ。
かつて惨劇の場となったビルディングの近くに咲く華やかなウィンターガーデン。
ガラスのドームを覗き込んだ観光客がおもちゃの兵隊に歓声を上げている。
わざわざ異国の地で新年を迎える気持ちが彼にはわからない。彼自身ここにいる理由を見失っている。
直にビザが切れる。ドルに変えた貯蓄も心許ないほど目減りした。
自分を取り巻くすべてのものから逃げ出した果ての地で、彼は未だ何も見つけてはいない。
何もわからないまま帰らなければいけないのか。彼は焦り始めている。
思索しながら歩き続けてどこに行くのかを見失う。
交差点の真ん中で立ち止まった彼に、容赦ないクラクションが浴びせられる。
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