彼は歌など興味がなかったのでテレビを消した。



男が姿を消したのは、完璧な仕事を彼によって打ち砕かれたからだと彼は今でも疑わない。

失踪した理由のわずかでも自分にあるなどととても受け入れられることではなかった。


自分が男に何をした?何もしていない。

男を救い、愛しただけだ。それは間違いない。


ただ、相手を理解しようともしなかっただけで。



彼は彼なんて大嫌いだったし、もう考えることもやめていたけれど、なのに今のワンルームを引き払えないのは、

いつか帰ってきた男が彼を訪ねてくるかもしれないという思いを捨てきれないから。



もし――もし戻ってきたら彼はどうするのだろう。

悪し様に罵るか、無視を決め込むか、それとも。



いつか許すことができるだろうか。

彼を捨てた男を。

男に捨てられた自分自身を。



今はまだ無理だ。ベッドの上で鬱屈している彼は、今日の疲労と明日の仕事のことと、自分のことだけで頭がいっぱいだ。



窓の外で物音がした。窓に何かが当たる音。彼の部屋は二階だ。

たぶん近所の猫だろう。出しっぱなしのチーズ鱈でも投げてやろうかと思ったが、面倒なのでやめた。

彼は動物など嫌いだ。いつもの一日がいつものように終わる。






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