最低限必要なものだけ詰め込むと、来たときと同じようにトランク一つに納まった。
I Love N.Y.と書かれたTシャツは、考えた末に友人への土産にすることにした。
久しぶりに袖を通す臙脂色のスーツが以前より少しだけ窮屈に感じる。
無事に復職できるかどうかもよくわからなかったけれど、今更体面を気にする必要も無い。
出国直前になってようやくこの国の自由という空気が自分に馴染んだ気がする。
男の活躍は知人づてに聞いていた。弁護士として成長していることを純粋に願う。
いつかの再会は避けて通れない。逃げるわけにはいかない。
男の顔を見るとき、どんな感情が沸き起こるのか彼は見当がつかない。
信頼か友情か。ライバルと向き合う喜びか。
触れ合う可能性については考えないでおくことにした。
どう言い訳しても、一度は捨て去った相手なのだから。
相変わらず苛々させられることには変わりないのだろう。
――せいぜい頑張りたまえ、成歩堂龍一。
懐かしい不敵な表情が彼の頬に浮かぶ。一年掛けて取り戻したあの笑みだ。
二度と戻らない自室に鍵をかけ、もう一度飛行機の時間を確かめる。
長い休暇が終ろうとしていた。
END
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