「パパ」
恐ろしく小さな手が私の指を握る。
ぐにゃりとした生き物が、急激にヒトとしての体裁を整えている様子に感嘆を覚えた。
「言葉も増えました」
妻が私の顔を見ずに呟く。
「あなたは知らないでしょうけど」
私の遺伝子を受け継いだ我が子をいとおしいと思う。
私が省みない家を守る妻をいとおしいと思う。
だが仕事に追われ気づいたときには、子供がいて、母親がいるこの部屋で、私は異物になっていた。
家に寄り付かない男の呼び名を、娘に覚えさせた女の執念。
私の妻はよくできた女だった。
他の女とは違い、一度たりとも父や夫であることを私に求めなかった。
休みらしい休みも取らず、法と罪としか向き合えない私を理解していたのか、始めから諦めていたのか。
籍は抜かないことを条件に、子供たちを連れた渡米を許した時も、
ほっとした表情を見せただけで最後まで私を詰ることはなかった。
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