エレベータに乗り込むと、扉の脇に奴が立っていた。
“開”のボタンを押したまま、乗り込んできた私を見て微笑む。
「やぁ、ようやく来ましたね」
「久しぶりだな、御剣」
「本当に」
「貴様は変わらんな」
「あなたも相変わらずだ」
御剣が目を細めて苦笑する。
乗客は私たち二人だけだ。
「上ですか?下ですか?」
御剣が“開”のボタンを押したまま尋ねた。
「貴様は」
「は?」
「貴様はどちらから来たのだ。
上か、下か」
「私は」
御剣が指を離しても、まだ鉄の扉は閉まらない。
「――私は、あなたをここで待っていました。
もう、ずいぶんと長い間」
私は俯いて、ひっそりと微笑った。
「どちらでも」
「は?」
「上でも下でも、貴様がゆく方へ」
「結構。では、参りましょう」
「……ちょっと待て」
ボタンを押しかける御剣の手を制す。
「待ちましょう」
「何か言うことはないのか」
「何かとは?」
「なんでもいい。恨み言でも――」
「睦言でも」
「相変わらずくだらん男だな、貴様は」
「狩魔さん、そう焦ることはない。
時間はこれからいくらでもあるのですから」
「そうか――そうだな」
私は腕を組み、満足げに瞼を閉じる。
「ゆけ」
御剣がボタンを押すと、弾痕の残るエレベータの扉が目の前で閉じた。
軽い振動音と共に、鉄の箱がゆっくりと動き始めた。
END