“御剣怜侍に復讐せよ”
指紋がつかぬように注意深く封をする。
深夜の地検で人知れず手紙を書いた。
後はこれをあの男の手に渡すだけ。
完璧な手筈が全て整った。
「狩魔検事」
「入れ」
検察官室の扉を開いたのは御剣だった。
「遅くまでお疲れ様です」
「貴様は?」
「拘留満期が一件ありまして、ずっと起訴手続きを。
被疑者否認のためにいささか手間が掛かりまして」
「そうか」
「手紙ですか」
御剣が私の手元に視線を落とす。
白い封筒はすでに封をした後だ。
「うむ。
娘にクリスマスカードを送ろうとな」
「それはいい。
きっと彼女も喜ぶでしょう。
今年の年末はお帰りにはならないのですか?」
「仕事だ。
私も、あちらも」
「そうですか」
滅多に会わない私たち親子が、片親のこの男にどんな風に見えているのか。
「貴様は?」
「と、申しますと」
「クリスマスの予定だ」
「仕事です」
「プライベートは」
珍しく私生活を尋ねる私に、御剣は極めて事務的に
「特に何も」
とだけ答えた。
いつぞやの会話に垣間見えた、名も知らぬ男の話をふと聞きたくなったが、
御剣はそのまま一礼して出て行く。
「よきクリスマスを」
男が消えた扉に声をかけ、デスクの引き出しを開く。