心を置き去りにしたまま季節は巡り、――冬が来た。
一層仕事に耽るようになった私は
――なぜなら私にはそれしか残されてはいなかった――
上着を変えてようやく年が変わろうとしていることに気付いた。
苦い響きが舌の上で跳ねた。
担当検事が私ということは、事件を請け負う時点で知っているはずだ。
……どういうことだ。
私と逢うことはおろか、法廷で対峙することも避けていたのではなかったのか。
“法廷で会おう”
とあの男は言った。
ならばそれで――それでよい。
肌に触れ合わなくとも、耳元で囁く低い声が聞けなくとも、
それでもまた、あの男とただひと時向かいあうことができるのならば
調書を取りながら私は懸命だった。
負けるわけにはいかないのだ。
あの男の前で、今更どんな失態も見せるつもりはない。
法廷で向き合う時の関係がすべてならば、私はそのために完璧であろう。
いくらでも、あの男の前に立ちふさがる壁になろう。
――それとも、と私は期待する。
“ほとぼり”が、醒めたのだろうか。
もしかしたら、という愚かな心を私は捨て去ることができなかった。
またあの夜を得ることができるのだろうか。
私が何者でもなく、
またあの男もただ私の前で全てであるような夜を迎えることができるのならば、
私は今度は、
何を引き換えにするのだろうか。
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