被告人への罪状が読み上げられ、公判が終わる。
乗り込んだエレベーターにはいつもの通りあの男の姿があった。
私たちのほかの客が降りるのを何気ないふりで待つ。
今週は無理だ。
だが来週末の数時間なら、なんとか都合がつけられるはずだ。
スケジュールを頭の中で組み立てている間に、私たちは二人きりになる。
耳元で囁かれる誘いを私は待った。
御剣は動かない。
何をしているのだ。裁判所の中で作れる時間などほんのひと時しかないというのに。
横目で男を伺う。
そこには、いつもの風情で弁護士が立っているだけ。
チン、と音を立ててエレベーターが1Fに着いた。
扉が開き、背広を着た背中がその間を縫うように立ち去る。
「み――」
うっかりと名前を呼びかける。
その小さな呟きがあの男の耳に入ったのか入らなかったのか。
入れ違いに乗り込む客に囲まれ、降りることもできない私は、