二  番  目  に  大  切  な  人









「これ、みやげ」



矢張はまったく懲りなかった。

バイト先から拝借してきたという、賞味期限の切れたパンや弁当を持ってきたり、

あるいは手ぶらでぼくの部屋を訪れるようになった。

週末などはそのまま泊まって行く。

ぼくの部屋にいる時も頻繁に携帯は鳴り、ぼくの知らない友達と話し込んだり。

たぶん矢張は一人でいるのが辛いタイプの人間なのだろう。

ずっと一人だったぼくとはまるで正反対の。



「なぁ、御剣から連絡あった?」

「………あいつの話はするなって言ったろ」

「なんだよ、話くらいさせろよォってやられたぜオイチクショウ!」



コントローラーを放り投げ、矢張は立て膝のまま器用に地団駄を踏んで悔しがっている。

ゲーム機は矢張の持ち込みだ。ぼくはぼくでこたつの反対側で新聞を読んでいる。



「くっそ、リベンジしてやるぜぇ」

「あいつのことはもういいんだ」

「おー、速い速い速い!右コーナー!」

「あいつが自分で言ったんだ。“死んだ”って。

 だからぼくもそう思っている」

「よっしゃぁ!!抜いたぜぇ!!!!」

「あいつがどこで何してようと知ったこっちゃないよ」

「ここのコーナーでいっつも減速しちまうんよなぁ」

「…………」



ぼくはリモコンを手に取りテレビを消した。



「あああ〜〜〜〜!!!!

 何すんだよ成歩堂ォォ!!!!」

「人の話を聞けよ!」

「お前が話すなつってんだろォ?」



矢張はぶつくさ言いながらコントローラーを放り投げた。



「聞かれないと聞かれないで腹が立つんだ」

「………ワガママだよなぁ、オマエ」



矢張に言われたくない。



「でもなんで死んじまったのかねぇ、検事さんはよォ。

 経緯聞いてもわけわかんねー」

「それをぼくに聞くのか?」

「別にオマエが不機嫌になるこたねぇだろ。

 オマエのせいじゃねぇんだしよォ」

「………………」

「でもアイツ昔っからカッコつけすぎだよなぁ。

 自分に酔いすぎっつーかよォ。

 ガキの頃の蝶ネクタイもどーかと思ったけど、

アイツ25過ぎてもあのヒラヒラ着てんのかねぇ。

 あ、でもあのナントカっつぅジイサンもヒラヒラしてたもんなぁ。

 よくわかんねーけどケンジとかって、そういうもんなのかねぇ」

「………………」

「まぁ、本当に死ぬんだったらもうちょっとマシな遺書残すべ?

 御剣もアレだなァ、うっかりあんなの残しちまったから恥かしくて帰ってこれねぇんだろうなぁ、

 アレくらいギャグで落とすくらいの器量がアイツにもありゃあなぁ」

「なぁ」

「ん?ミカン食う?」



 矢張が黄色く濡れた指先で蜜柑の房を差し出す。



「いらない。

 さっきの話だけど。

………あいつが、いなくなったのって、ぼくのせいじゃないのかな」

「おう。

 なんでオマエのせいなんだよ?

 だって成歩堂、スゲー頑張ってたじゃねえか。

 無罪にするのしねえのって、必死だったじゃねえか。

なんだよ、そんなの気に病んでたのか。

 アレとコレとは別だろお?オマエが御剣助けてやったのは事実なんだし。」

「…………」

「人間、一人になりたいときもあるからよォ、そっとしておくしかねーよなぁ。

 そのうちひょっこり帰ってくるって!。

 ま、でも、オレの活躍がなけりゃアイツの無罪はありえねーから

 半分はオレのお陰な!」



 新聞から目を離せなかったけど、矢張の言葉でぼくは救われていた。

 誰かがそう言ってくれるのをずっと待っていた。

 ぼくのせいじゃないと、

 ぼくは精一杯やったと、誰かに、そう。

 ――できれば、あの時に彼の口から聞きたかったのだけれど。



 矢張はリモコンを奪い返し、新記録のためにコントローラーを握りなおす。

 最後の一つを食べることに気が引けたのか、

ぼくの前には半分に割られた蜜柑が置かれていた。



「あー、オマエんち散らかってて落ち着くよなぁ。

 オレ住んじゃおうかなぁ」

「……勘弁してくれぇ」



























たとえばこたつの中、伸ばした足先で悪戯したり、

布団の中で耳にキスしたり、

二回に一度は矢張は逃げる。



「エロい気分じゃねえんだよな。ワリィ」



そうしてまたTVゲームなり、眠りなりに戻る。

だからぼくはとても気が楽だった。

逆に許されている気になる。



今日はその二分の一のオーケーをもらった方、

手で逝かした矢張はぐったりしてぼくのベッドにうつぶせている。

あの頭の悪いTシャツ一枚の後姿はそれなりに扇情的だった。

今日こそはもう一歩進ませてもらおうと、

尻たぶにぼくの先端が触れる。



「うわっと!」



およそ色っぽくない声を出して、矢張はぼく自身を手で遮った。

「それは勘弁な?

 マスのかきあいっこにしておこうぜ。お互いによ」



こめかみに汗を浮かべて、矢張は困ったように笑う。



















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