俺は長椅子に座ったまま、暖かい口腔が生み出す快楽を殿様のように味わっている。
一度でツボを把握したのか、鳴海の舌は、さらに巧みに俺を舐め尽した。
こんな場面を、平島助教授が見たら卒倒するだろうなと、俺はぼんやり考えていた。
このままではまた、前回と同じように鳴海のペースで事が運んでしまうだろう。
乗り切れないセックスではあるが、二度も続けてマグロと思われるのはさすがにシャクだった。
鳴海にいいようにされてはいるものの、俺にだってそれくらいの矜持はある。
かと言って受身の状態からどうしたらいいのよくわからず、
少し身を屈めて鳴海の胸元に手を伸ばす。
当たり前だが胸はぺたんこだった。
なぜか意外性を感じたのは、無意識のうちに白鳥の胸と比べてしまっていたからだろう。
あの時の白鳥の胸は、しっとりと柔らかいマシュマロのように手の中に納まって、
いや、今はそんな回想に耽っている場合ではない。
鳴海の胸をぎこちなく撫で回してみたが、男の乳首は小さく、女性のそれと比べて見つけにくい。
それでもわずかな取っ掛かりを見つけてくすぐると、それが少しずつ隆起し、自己主張を始めるのが指先から伝わってきた。
摘んで引っ張ると、鳴海の肩がぴくんと、跳ねた。
「ここが、弱いんですか?」
意地悪く尋ねると、鳴海は唇を離し、悪戯っぽい表情で答えた。
「他にも弱いところがあるかもしれませんね。
見つけていただけますか?」
俺の負けん気が伝わったのか、鳴海は誘うような仕草で膝に乗り上げてくる。
攻守交代。
俺は鳴海を長椅子に座らせ、自分の指を咥えた。
その動きだけで鳴海は察したらしく、脱いだ服の中からあのケースを取り出して、中身を俺の指に塗布する。
そうして、抱えた膝を軽く開くようにして、俺の前に全てを晒した。
初夏の夕暮れの光が、カーテン越しに細い体をやんわりと照らし出す。
「本来はデリケートな粘膜なので、扱いはどうぞソフトに」
「あ、はい。留意します」
「直腸診の経験は?」
出し抜けにそんなことを訊かれ、俺は面食らいながら記憶の糸を辿った。
「確か研修医の頃に……。まぁ、十年以上前のことになりますが」
「わかりました。ではまず、人差し指から始めましょう」
鳴海の口調は、秘め事の最中というよりは、まんま指導者のそれだ。
まぁ、あながち間違っちゃいないだろうが。
俺も教えを乞うつもりになり、言われるままに人差し指を窄まりにあてがう。
潤滑剤の力を借りて、わずかな抵抗の後に指が沈んだ。
暖かく締めつけてくる感触が、擬似的にあの時の快感を掘り起こす。
根元まで埋まった指をゆるゆると出し入れすると、肉環が引き留めるようにひくついた。
「指を根元まで挿入し、恥骨の裏の辺り、第一関節を曲げてみてください」
言われるがままに曲げてみると、確かに指先にこりっとした感触が触れる。
「っ……そこです。膀胱側が底辺部です」
いや、俺だって前立腺の位置くらい、さすがに知っている。
俺はその性的に敏感な器官を探りながら、言った。
「肥大などの異常は無いようですね」
「ええ。正しい診断でしょう」
鳴海は俺の頭をよしよしと撫でた。
端的で的確すぎる指示に、愛撫を加えているというよりは、インターン時代に戻ったような気になってくる。
もっとも、指導にここまで体を張るオーベンに出会ったことはないが。
「……いいですよ。指、増やして」
鳴海に促され中指を添えると、きつい孔が足した分だけきっちりと拡がる。
丹念に刺激するにつれ、本来は性交用ではないその場所が、
少しずつ柔軟になってゆくのを、体感として知ることができた。
体内の性感を擦り上げる動きに合わせ、鳴海のペニスがぴくり、ぴくりと反応する。
勃ちあがった先端からは、その度にとろとろと透明な分泌液が押し出されていた。
『弱点を徹底的に責めろ』
こんな時に、思い出さなくてもいい白鳥のレクチャーが耳に蘇る。
アクティブ・フェーズ極意の……えーと、8か9だっけ? 7だったかもしれない。
鳴海はさすがに呼吸を荒げ、悩ましげな表情で俺の髪の毛をかき乱した。
気持ちよさそうなその姿に、失いかけていた自信がなんとなしに蘇る。
やればできるもん、気分。
そう考えた直後に、それすら鳴海の策略なのではないかとの疑心も浮かんでくる。
どの道こうなっては、目の前の行為に集中するしか、俺に残された道は無い。
三本まで指を増やすと、掌全体がワセリンでぬるんでくる。
指を動かす度に、垂れ流れた鳴海の先走りも絡んで卑猥な音を立てた。
「鳴海先生、辛くないですか」
「…あ……だ、大丈夫……です。
すごく、気持ちいいですよ……」
「この行為の主な目的を教えてください」
しかし、このままいかせてしまってもいいものだろうか。
引くに引けずに、やめ時がわからない俺は、行為を続けながら率直に尋ねてみた。
「……な…に?
え…と、objection……」
片手で顔を覆いながら、鳴海は快楽に濁った頭からなんとか言葉を引き出そうと苦心していた。
「ぜ……前立腺、刺激によって快感…を……いや性感を……あッ
いえ、あ……アナルファッ……じゃなかった……アナルセックス準備のために……ための……んうッ
括約筋を………ッ」
筋道を立てようとする努力は汲み取れたが、唇から発せられる言葉はほとんどうわごと同然だった。
ビブラートに震える語尾に、局部が奏でる濡れた音が被さる。
喘ぎ声を発するのは我慢しているらしく、時折親指の関節を噛んで声を堪えている。
「あの、肛門性交のための拡張マッサージ、ということでいいんですか?」
「は……い、そうです。お尻……拡張……を。
ペ……ペニスの質量と、摩擦に……せ、
あッ、…こ……性交の使用に…問題が、なければ……ん、んんッ」
これではまるで、俺が無理矢理淫語を言わせてるみたいじゃないか。
直接的な語彙を口にするとき、さすがに鳴海は恥ずかしそうに目を伏せた。
意外と、羞恥を装って悦んでいるだけかもしれない。
どっちにしろ、指三本を根元まできちきちと咥えこんでいるその孔は、
俺ジュニアを受け入れることには何の問題もないように見えた。
いや、まだ厳しいのだろうか。
いや、たぶん大丈夫なのではないか。
それにしても、桐生のペニスは最大時でどれくらいのサイズなのだろう。
などとぐるぐる考えながら、しどとに濡れた鳴海ジュニアを左手で擦り上げる。
後孔に気を取られすぎて、こちらは今の今まで気が回っていないかったのだ。
ところが、そちらを刺激した途端、鳴海はひきつるような声を上げて顎を仰け反らせた。
指を動かせないほど食いしめられる。
緩く開いていた太腿が反射的に閉じられ、俺の両手はその間に捕らえられた。
「……い、いけませんね。 そんなことをしたらすぐに達してしまいます」
荒い息をつきながらそう言うと、
根元まで鳴海に埋まっていた俺の指を抜き、控えめに膝を開く。
「上出来ですよ。 田口先生に、ご褒美を差し上げましょう」
俺の目の前で、尻溝にかけた指をV字型に押し広げ、その奥でひくつく窄まりを見せつけてくる。
そこが与える愉悦をありありと思い起こし、下半身にかっと熱が集まる。
生唾を飲みこむ音が、おのれの耳にやけに大きく響いた。