次の日は二人とも昼近くまで眠っていた。
鳴海も英語論文は諦めたらしく、駅前のホテルでランチをとった後は、部屋に戻りゆったりと過ごした。
玄関のチャイムが鳴ったのは、ねちっこいセックスをこなした後、二人でシャワーを浴びている最中だ。
俺の背中を掌で洗っていた鳴海が、顔を上げてお湯を止めた。
「宅配便かな?」
「何か買ったんですか?」
「ええ。旅行がキャンセルになったので、インターネットで明太子を1キロ」
「……そんなに食べきれるんですか」
「半分、持っていきませんか」
「桜宮までもちますかねえ。この暑さで」
なおもチャイムは鳴り続けている。
急かされた鳴海は濡れた体にバスローブをまとい、そのまま玄関へと向かう。
1キロはいくらなんでも買いすぎではないか。そもそも明太子って冷凍できたっけか。
そうだ、火を通せば少しは日持ちするだろうし、持って帰ることもできるかもしれない。
せっけんを洗い流しながら大量の明太子に思いを馳せていると、表情をこわばらせた鳴海が戻ってきた。
やはり、量が多すぎて面食らったのだろう。
「鳴海先生、魚卵はフローズンできるんでしたっけ」
俺の素朴な疑問には答えずに、鳴海は青い顔のまま、唇に人差し指を押し当てた。
そして裸の俺を風呂場から引っ張り出し、耳元で囁いてくる。
「田口先生、少しの間だけ、寝室で待っていていただけますか」
寝室? なんでまた。
開きかけた口を掌で塞がれ、俺は問いただすこともできずに、全裸で寝室に放り込まれた。
一体なにごとなんだ。こんな慌てた様子の鳴海は珍しい。
さきほどの痕跡が残るベッドに呆然と腰掛けていると、リビングからかすかに話し声が聞こえてくる。
話し声――いや、怒鳴り声?
明太子に何かトラブルでもあったのだろうか。 厚い扉に閉ざされて、会話の内容までは聞き取れない。
転がっているティッシュを踏みつけながら、俺はドアノブにそうっと手をかけ、ほんのわずかだけ扉を開いた。
途端に、
「一体どういうことなんだ。リョウ」
懐かしいバリトンが耳に飛びこみ、心臓が止まりそうになる。