服を脱ぐのももどかしく、ソファの上で絡み合う。

 寝室に誘う気にもなれないほど、珍しく俺は挿入を急いでいた。

 鳴海の下着もおろし切らないうちに、鼠径部にペニスを押しつける。

 なすりつけるように腰を動かしていると、鳴海がそれに応えた。

 掲げた足を交差させ、内腿でぎゅっと挟みこんでくる。

 滑らかな肌が心地良い。



 鳴海がポケットから取り出したワセリンを絡ませると、摩擦が擬似性交のようなぬるつきを帯びる。

 相変わらず準備がいい。俺は素直に関心した。



 足の隙間で、俺のペニスがたちまちのうちにそそり立つ。

 腰を振るうちに先走りがぬめり、音が粘着度を増してくる。



「下着、汚れますよ」



 太腿に引っかかったままの布を気にして、小声で囁く。



「いいんです」



 発情した声で、鳴海が答えた。



 後ろから手を回し、尻溝を摩る。

 鳴海の太腿を蹂躙しつつ、わずかな窪みに中指を押し当てた。

 つついているうちに、ワセリンに濡れた指先がぬるっと沈みこむ。

 腰の動きに合わせ、指を抜き差ししながら、鳴海の表情がもどかしさに蕩けていく様を眺めていた。 



 指先は鳴海の熱さに甘く痺れる。

 挿れたいと、俺は思った。



 脚の隙間から抜いたものを、肉の入り口にあてがう。

 鳴海がわずかに頭を上げ、熱っぽく訊ねた。



「入れたい?」

「うん」



 俺は頷いた。

 鳴海は浅い呼吸を吐きながら、今にも沈みそうな亀頭を、中指と親指できゅっと挟んだ。



「つけないと」



 ティッシュケースの内側に仕込んであるコンドームは、普通の客に見つかったらどうするつもりなのだろう。

 鳴海は取り出した小さな袋を歯で破り、半透明の中身を唇に咥えた。

 蛇が獲物を嚥下するように、口でそれを着けてくれる。

 ゴム越しに鈴口をくすぐられ、俺は小さなため息をついた。



 睾丸にキスをくれてから鳴海はソファに伏せ、挿入しやすいように軽く腰を上げた。

 顔だけこちらに向け、悪戯っぽい笑みを浮かべる。



「がっついて、子供みたいだ」



 いや、子供はこんな真似はしないだろう。

 とりあえず大人である証を示すため、俺は鳴海の腰を引き寄せた。

 鳴海のペニスを探りながら、細い首筋にキスをする。

 俺の手に、鳴海が掌を重ねてくる。



「………っ」






 押しつけた途端に、携帯のバイブが鳴った。



 ペニスをあてがわれたままの姿勢で、鳴海が脱ぎ捨てたズボンをまさぐり、ポケットから携帯を取り出す。

 発信者を確認すると、すぐに電話に出た。



「鳴海です」






 事務的なやり取りから察するに、電話の相手は病院のようだ。

 俺は覆い被さった体勢のまま固まっていたが、思いのほか電話が長い。

 あちらもまさか、男とまぐわう寸前とまでは考えていないのだろう。



 さすがに挿れるつもりはなかったが、中途半端な姿勢が苦しかったのと、わずかばかりの悪戯心に、

 俺はほんの数ミリだけ腰を進めた。

 途端にグーで殴られ、そのままの形で後ろにひっくり返る。



「なんでもありません。大丈夫です。……はい、わかりました」



 鳴海のパンチは、見た目よりはるかに強力だ。

 頬を摩る俺に、電話を終えた鳴海は気まずそうに声をかけた。



「田口先生、申し訳ありません」

「いえ、こちらこそすみません。邪魔するつもりはなかったのですが」

「そうではなくて、解剖依頼が入ってしまいました」



 電話は、やはり循環器センターからの呼び出しだった。

 解剖は予測不能なのだからやむを得ない。



「それは、大変ですね」

「いつものことですから」






 鳴海はすぐにシャワーを浴び、さっさと服を着てしまう。

 そして出かける間際、俺に鍵のスペアを差し出した。



「帰りは遅くなると思います。先に休んでいてください」

「わかりました。気をつけて行ってらっしゃい」

「――ええ、行ってきます」













 鳴海の背を見送ってしまうと、途端にすることがなくなる。

 部屋主の帰りをおとなしく待つことにして、コンビニに弁当を買いに行き、

 あとは頭に入らないローカル番組をぼんやり眺め続けた。






 弁当を食べ終え、ふと時計を見る。

 ずいぶん時間が経ったようにも思えたが、時刻は8時を回ったところだった。






 まだ終電で帰れる。

 なぜだがわからないが、そんな考えが脳裏を過ぎった。 










 だが、俺はそうはしなかった。

 代わりにごろんと横になり、鳴海を待ち続けた。

 一人で観るテレビはひどく退屈で冗長で、いつしかそのまま寝入ってしまっていた。