「Don't worry. ちゃんと最後までできたんですから、そんな気に病まなくても大丈夫ですよ」

「別に気に病んでなんかいません……」

「ただ、勃起不全は稀に内臓疾患が原因の場合もありますから、

 心配なら一度検査を受けられたほうがいいかもしれませんね」

「………………」



 駅までの道中、俺は鳴海にさんざんいじられっぱなしだった。

 きっと桐生は中折れなんかしなかったに違いない。

 だから鳴海は、症例の物珍しさも手伝って、こんなズケズケとものを言ってくるのだろう。



 元気になってくれたのはありがたいが、今度は酔っ払っているんじゃないかと心配になってくる。

 新幹線の高架線が見えてくると、鳴海は急に俺の襟首を掴んだ。

 息を詰らせて、つんのめる。



「な、なにをするんですか」



 目を白黒させている俺に、鳴海は改めて礼を言う。



「今日はありがとう。とても楽しかった」

「……楽しかったんですか?」

「ええ、とても」



 やっぱりちょっと酔っ払っているのかもしれない。

 それでも楽しいと言ってくれたのなら、俺も無理に引っ張り出した甲斐があるというものだ。



「そいつはよかった」

「やっぱり東城大に残ればよかったかな。

 そうしたら、田口先生と毎日会えたのに」



 いや、不定愁訴外来の俺が、病理の鳴海と会う機会はまず、無いのだが。

 それでもまぁ、新幹線に二時間揺られないで済むだけ、今より会いやすいことは確かだろう。



「もし、鳴海先生がご希望なら今からでも――」



 そう言いかけた途端、俺の脳裏に高階院長のにやにや笑いが蘇った。

 これでは院長の思惑通りではないか。

 あの狸、まさか、ここまで読んで――。



 言葉を呑んだ俺を誤解したのか、鳴海は少し悲しそうに微笑んだ。



「わかっています。

 田口先生は院内のスタッフとうかつに関係を結ぶような方じゃない。

 あそこに留まっていたら、先生は私と寝なかったでしょうね。

 私も、義兄のいない病院に留まるのはあまりにも辛すぎて」



 鳴海の言葉に、色ボケしていた思考を慌てて軌道修正する。

 そりゃあそうだ。同僚なら、逆に気を遣って会うこともままならないかもしれない。

 同科の兵藤ならともかく、他科の医師が頻繁に会いに来ていたらいらぬ疑いを持たれる。



 今日のように、二人で出かけることもまず無理だろう。

 桜宮市も大学病院も、そんな先進的な装置ではない。

 フロリダがどうだったのか、俺に知る由は無いが。



「……来週、またすぐ、会えるんですから、

 そんな淋しそうな顔をしないでください」



 それだけで、俺の意思は伝わったらしく、鳴海の安堵した空気が伝わってくる。



「大変だったら、僕が行くから」

「はい。でも、大丈夫ですよ」

「デートの締めくくりだから、キスしてください」



 俺は周囲を見回すと、人気の無いビルの路地裏に鳴海を連れ込み、短いキスをした。

 鳴海に必要なのは、セックスよりも、きっとこういうことだ。