夜明け前のいつもの時刻。

 うなされる鳴海が忍びなく、目覚める前に俺は揺すり起こした。

 薄目を開けた鳴海は、俺を見上げ安堵のため息をつく。



「毎晩となると、やはり異常です。

 レスリンかデパスあたりを試してみてはいかがですか」



 慰めるより先に、頭の中で処方箋を切ってしまう。

 恒常的に目覚めてしまうのなら、立派な睡眠障害だ。

 鳴海は交差させた腕で瞼を抑え、小さくかぶりを振った。



「最後まで見届けないといけない気がして……」



 覚醒したての、擦れた声でそんなようなことを呟く。

 意味がわからず黙っていると、鳴海は身を起こして、俯いたまま続けた。



「……見る度に、少しずつ進行しているんです。

 もう少し、もう少しで最後までいくはず」



 鳴海はまだ半ば、夢の中に取り残されているようだ。

 義務感として悪夢を見続けているのなら、ずいぶん自罰的な話だ。

 健康的な眠りとは言えないだろう。



「苦しんでいる鳴海先生を見るのが忍びないんです。

 誰にとっても、眠りは安らかなほうがいいとは思いませんか」



 鳴海が、ぽつりと呟く。



「義兄を生きたまま解剖する夢なんです」



 そうすれば今しがたの光景から逃れられるとでも言うように、

 鳴海は瞼を両掌で抑え、苦しそうな声を絞り出す。



「内臓を全部取り除いた後も、生体だから出血が止まらない。

 詰めた綿が見る見る真っ赤に染まって――ああ――。

 血溜まりの中で、義兄さんがこちらを向いて僕の名を――義兄さん、義兄さん」

「それは夢です」



 俺はきっぱりと言うと、他に何もできずに、鳴海の肩を抱いた。



「ただの夢だ。現実じゃない。

 あなたが何も苦しむ必要はないんです」


 
 鳴海は顔を上げ、虚ろな目でこちらを覗きこむ。

 その暗い瞳の奥に、鮮血に染まってこちらを向く桐生が、俺の目にも微かに覗けた。