鳴海が飛び起きるのは、いつも午前三時前後のようだ。

 きしむベッドに、つられて目を開く。

 顔を押さえ、苦しそうに息をつく額に、光る汗を見咎めた。



「いつからですか?」



 声をかけると、はっとしたように鳴海は顔を上げる。



「申し訳ありません。ただ、夢見が悪くて」

「念のため、一度PSGを受けてみませんか」

「SAS(睡眠時無呼吸症候群)? まさか。

 そんな兆候ありますか?」

「いいえ。安らかなもんですよ」

「では、違うのでしょう。

 ポリグラフより、田口先生のほうがよっぽど信用できる」



 俺の見立てはやんわりと否定された。

 確かに同衾していて、呼吸の異常に気づかないはずもない。



 再びベッドに横になっても、見開かれた鳴海の目は天井に向いたままだった。



「……いつからだったかな」



 薄闇の中、冴えてしまった俺の視線に気づき、鳴海がこちらを見て微笑む。



「環境を変えたら治るかも」

「枕ですか?」

「田口先生のところにも、泊まってみたい」



 過去を埋めるように写真を見せ合ったり、泊まりに行きたいとねだってみたり、

 行為だけを切り取れば、まるでつきあい始めの初々しい二人だ。

 洗面台に、先週残していった俺の歯ブラシを見つけた時は、なんとも甘痒い気分に襲われた。


 交際って、こんな風に始まるものだったっけか。

 あまりに久しぶりの感覚に、俺は判断をつけられずにいる。



「狭いし、何もないですよ。

 寝に帰っているようなものなので、布団は敷きっぱなしですし」

「布団さえあれば、充分じゃないですか」


 相変わらず際どい切り返し。

 二の句が継げられず黙りこむ俺に、鳴海が抱きついてきた。

 指の背で、頬をそっと撫でられる。



「朝まで田口先生の匂いに包まれたら、きっとよく眠れるでしょうね」



 答えられずにいると、その指がゆっくりと首筋まで降りてきた。

 パジャマのボタンを滑らかに外され、鎖骨から胸板。臍の下まで。

 中心線を真っ直ぐ下る掌は、生身のからだがそこにあることを確かめているかのようだ。



 鳴海の行為に微かなデジャヴを覚え、その原因を探ろうとしてみたが、

 焦らすように触れられているうちに思考が霧散してしまう。
 
 俺が触り返すと、やっと下着の中に手が差しこまれ、ぬるつく先端を柔らかく握られる。



「あんなにしたのに、もう、こんなに」



 笑みを秘めて囁き、闇の中で鳴海が唇を重ねてくる。












 互いの手の中に吐き出す頃には、窓の外は明るくなり始めていた。

 夜明けの青が鳴海に影を落とし、その瞼が閉じたのを確認してから、怠惰な二度寝の淵に俺も辿りつく。