夜中にふと目を覚ますと、俺は見知らぬ部屋にいた。
寝ぼけて頭がうまく回らない。
気配を感じて脇を向くと、ベッドサイドに腰掛けている白い背中が見えた。
そして、小さなため息。
「眠れませんか」
声をかけると、鳴海はゆっくりと振り返る。
そうだ。ここは鳴海の寝室だ。
パジャマも用意してくれていたのに、結局素っ裸のまま眠ってしまったんだっけ。
「起こしてしまいましたか。
気にしないでください。元々、眠りが浅いんです」
申し訳なさそうに鳴海が答える。
俺は寝ぼけ眼のまま腕を伸ばし、目の前の背中を引き寄せた。
「無理して眠ろうとしないで、横になっていたほうがいいですよ。
身体も休まりますし、気がつくと、朝になっている」
言葉の後半は、むにゃむにゃと口の中の呟きだけで終わってしまう。
半覚醒の脳が、猛烈な勢いで再び眠りの国に引っ張られていた。
腕の中の鳴海が、何か文句を言っているのはわかったが、それすら子守唄に聴こえてくる。
どうやら鳴海は腕枕に抵抗を示しているようだ。
「……腕を圧迫すると、トウコツ神経麻痺を発症する恐れが」
神経内科の性として、神経という単語だけかろうじて耳に飛びこんでくる
トウコツってどんな字だっけ。そうそう、橈骨だ。
「そうですね。でも、そんな心配はいりませんよ。
私は外科医じゃないですから。
大丈夫、大丈夫……」
なだめているうちに、もごもご言う抱き枕がおとなしくなったと思えば、
それは腕の中で一匹の巨大な猫に変わっていた。
こわいゆめを、見るんです。
青い目でじっとこちらを見ながら、猫が呟く。
それは怖かったですね。もう大丈夫ですよ。
お薬を出しておきますからと、毛並みを撫でながら俺は答える。
どこからどこまでが夢か判らないまま、まどろむ意識はそのままブラックアウトした。
リバーサイドの憂鬱 4章
悪 い 夢