「どうだった?」






 入試を終え、校門口でおれを待っていた勇に声を掛ける。

 数日会わない間に、勇は少し痩せたように見えた。

 伸びた前髪をいじり、おれをちらっと見てそっぽを向く。






「聞くな」






 そう吐き捨て、おれに背を向けてスタスタと歩き出した。

 おれも慌てて追いかける。






「オマエがあんなこと言い出すから、あの後さっぱり試験勉強手がつかなかったんだぜ」

「それ、おれのせいなのか?」

「そ。オマエのせい」

「責任取るよ。 一緒に暮らそうぜ、勇」

「バーカ」






 口元、白く息が煙った。

 追いついて顔を覗きこむと、まんざらでもなさそうに笑っている。






「イヌノはどうだった?」

「え?」

「試験」

「まぁまぁかな」

「なんだよそれ」

「どこか、マックでも入ろうぜ。今のうち答え合わせしちゃおう」

「うーん」






 勇はおれをちらっと見て、照れたように目を泳がせた。






「――やっと終わったんだから、復習もいいけど、

 ちょっとのんびりしようぜ。 ……ひさびさ会えたんだし」






 鈍いおれもさすがに汲み取る。






「そうだなぁ。 とりあえずお茶でもしようか。そのあとうち来いよ」

「……うん」

「お疲れ様、勇」

「ほんっと、疲れたぜ」






 本当は今すぐ抱き寄せてやりたいけど、ま、二人っきりになるまでの我慢。

 大学通りの街路樹の芽はまだ固く閉じ、春など知らないかのように凛と枝を張っている。






「思い出すなぁ」

「何がだよ」

「ほら、高校入試の日。 勇と初めて会ったとき」

「へ?」

「入学したての頃さ、おれ、勇に話しかけてほしくて、

 半パン履いて勇のクラスの前をよくうろついていたんだよな。

 勇のアドバイス通りにツルツルにした足を褒めてもらいたくてさ」

「そうだったっけ?」












 喫茶店に入ってからも、初めて出会った三年前の冬の日のインパクトを、

 おれは身振り手振り交えて話した。

 勇は紅茶を飲みながら、覚えてないと笑って答えた。

 その答えが嘘か本当か、おれに知る由もない。















                                                   
はるのひ





                                                END








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