ションバーグ黒人資料図書館を訪ねにハーレムまで行き、その帰りにマーケットに立ち寄った。
雑多な品物を置く店内を象徴するように異人種のゲイカップルが仲睦まじく品物を物色している。
豆の缶詰を持ったまま、どうして自分は彼とあんな風になれなかったのかと考える。
社会的背景。心理的基盤。愛情の機微。今ここに相手がいたら手を繋げただろうか。否。
まだニューヨークに来たばかりで打ちひしがれている頃、ゲイプライドマーチを見物した。
レズビアンやゲイ、性的マイノリティである男女が着飾り愛を叫んで踊り歩く。
"GOD'S LOVE WE DELIVER "と書かれた真っ赤な看板が一際彼の目を惹いた。
彼はクリスチャンでは無かったが、たとえ信徒であってもそこまで自意識を持てなかっただろう。
自由の国で育ったにも関わらず、『家』という因習から逃れられない少女を知っていた。自分も彼女と大して変わらないのだろう。
店を出たところで若い黒人に声を掛けられた。露骨な英語で露骨に誘われたが、彼は言葉が判らないふりをしてその場を去った。
日本人男性を好む趣向の男たちも決して少なくない。
132丁目の角を入ったところで銃を突きつけられ路地裏に連れ込まれる。
言葉がわからないなら何をしてもいいという結論に行き着いたのか、満身の力で頬と腹を二三発殴られ目の裏が真っ赤になる。
ズボンを乱暴に下ろされ壁に顔を押し付けられた。拳銃の冷たい感触はやはり恐怖だった。
路地裏は小便と生ゴミの匂いがした。
刑事ならともかく、元検察官の肩書きはこの場合何の意味も持たなかった。
尻の穴に中指をねじ込まれ彼は呻いた。
静かにしろとレイパーが脅す。
ここに男を受け入れて悦んだことがあることがわかってしまうだろうかと、彼はおおよそ場違いな不安に襲われた。
太い別の銃が取り出されるのを彼は絶望的な気分で眺めた。冗談じゃない。
冗談じゃない。
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