存    在    の    耐    え    ら    れ    な    い    重    さ










知る限りのスラングと日本語の罵詈雑言、そして百ドル札二枚を投げ捨てて彼は診察室の扉を足で閉じた。




マンハッタンの高級アパートメントの一室。

あれで二百ドル。いい商売だと彼は思う。



母国語が通じた方がいいだろうと選んだ日系人の精神分析医は、

なるほど日系人ではあるがその日本語能力は彼の英語力程度で、

英語と入り混じったアドバイスは彼を余計に混乱させた。

それでも相互の語学力のためにはプラスになるかもしれないと彼は真面目に通院した。



受診してわかったことはその精神分析医が黴の生えたフロイト学説の純粋な信奉者ということだけ。

数度のカウンセリングで同性愛傾向を指摘され、

根底にあるのは父との近親相姦願望という古い診断が彼の激昂を誘った。



――ドクター、その解釈に私は納得することはできない。

私に必要なのは知恵。今ここにある情緒的葛藤を乗り越える術である。



ベン=ケーシーに似ていなくもない医師は笑って、



――そう否定するのも自分の願望を認めたくないからだよ。

イエス、心配は要らない。

私はあなたのような病理を抱えた人間を何人も見てきたのだから。

何も恥じることはない。あなたの病気は必ずよくなる。



彼は自分に激昂するだけの力があることを知る。



馬鹿馬鹿しい。

怒りに任せて階段を駆け下りた。

十二月の気温は例年のように零度以下で、彼の頭を冷やすにはつめたすぎる。



せっかくこちらにいるうちに、精神分析医の一つにでも掛からなければと、軽薄さの罰が当たったことを彼は恥じた。

ニューヨーカー気取りの日本人と変わりない彼はやはり日本人だ。



コートの襟を掻き抱きながら地下鉄の駅へ向かう。







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