Love is beautiful.






「19F…19F……あ、ここだ」

「狭いぞ」



 搭乗時間ギリギリに乗り込んで、開口一番御剣は文句を言った。



「いいんだよ!エコノミーで充分だっつーの!

窓際譲ってやったんだから我慢しろっつーの」

「しかしエコノミー症候群というのがな、長時間のフライトでは危険度が増す」

「心配なら十分おきに便所に立ちゃ平気だからよォ。飛行機初めてなのかよ?」

「そんなことはない。幼い頃は父にあちこち連れていかれたものだ」

「数入らないから!それ!」

「しかしだな、私と君の身長からすると」

「おい御剣」

「……なんだ矢張」

「トランクも一々新しく買わなくていいし、大体その暑苦しいスーツ脱げ!

 オレのアロハ貸してやっから」

「結構だ。どれも柄が派手すぎる」

「オメーに言われたかねぇよ!

 空港で枕とかアイマスクとかけん玉とかも買い込まなくていいんだよ!

無職なんだからもちっと慎ましく生きろや!」

「しかし旅にトランクはつきものなのだろう?」

「おい無職」

「……なんだフリーター」

「オマエのそのズサンな金銭感覚、この旅でオレが直してやっから覚悟しとけよ!」



 うるさすぎて巨乳のスッチャデスに怒られ、オレたちはベルトを締め大人しく座席についた。



「……ところでよ、聞き忘れてたんだけどちゃんと成歩堂にはナシつけたんだろうなぁ」

「問題無い。手紙を残してきた」

「手紙ねぇ……」



 またトンチンカンなこと書いて、逆ギレさせてなきゃいいんだけどよ。



「オレと一緒なことは言ってねえよな?」

「無論だ。何度も言わなくてもわかっている」

「頼むぜ。殺人事件の容疑者の次は被害者とか、そんなんカンベンだからよォ」

「………」



 飛行機が動き出してGが掛かる。

 御剣は青い顔で窓の外を眺めていた。



「なんだよ、飛行機怖いのかよ」

「狭い」

「だーかーらぁ」

「苦手なんだ……密閉された空間は」

「……なんだよ、そういうことなら早く言えよ。

 握っててやろーかぁ?手」



 オレがニヤニヤ右手を差し出すと、御剣は

「結構だ」

とつげなく返し、買ったばかりのアイマスクを早くも装着した。



ふわりと機体が浮き、オレたちを乗せた旅客機が空に飛び出した。

こうして、オレと御剣の旅は幕を開けたのだ。









Back   Top   Next