Love is beautiful.








いやまぁ聞いてくれよ。



オレの小坊の時のダチが今ベンゴシとケンジやってんだけどよ、

それは何度も聞いた?

まぁ聞けよ。

ソイツらがさぁデキててよぉ、オレビックリしてさぁ。

あ、両方とも男なんだけど。

今時そんな珍しい話でもねぇか?

まぁ聞けよ。



でなそのケンジ?

未だに何やるシゴトなのかよくわかんねーけどよ、あれだろ?

豆腐屋よりはムズカシイコトやってんだろーなぁ。

そいつの誘いで、三人で飲みに行くことになったわけよ。



「3800円分キミたちにご馳走したい」



と言い出してよ。律儀な奴だよなぁ。

なんでそんな半端な金額なのかって?

その話は長くなるからまた今度な。




で、まぁ三人で飲む機会もあんま無かったし、

ご馳走してくれるって言うしホイホイ着いてったわけよ。

ケンジってあれだろ?何やってんのか知らねーけど、

豆腐屋よりはいい時給なんだろ。



ベンゴシの方は――成歩堂って言うんだけど――結構つき合い長いんだけど、

そのケンジの方は、ダチったって、親しかったのは小学校の1年間だけだし、

つきあいのブランクが長すぎてなぁ。

共通の話題と言ったらガキの頃の思い出話と、こないだの事件の話ばかり。

それでも幼馴染みっつうのは独特の気安さがあるからさ、

酒も進んだりなんかしちゃってな。



オレは結構飲んでたな。

少なくとも3800円以上は飲んだ。うん。

「いやまぁよかったよなぁ。なんにしろなぁ」

「ははははは」

「ベンゴシとケンジねぇ。

あの洟垂れ坊主がなぁ」

「洟垂れてたのはお前だろ、矢張」

「御剣も相変わらずだよなぁ。ちょっと暗くなったけどよ」

「そうか」



何の話題かは忘れてたけど、たぶん成歩堂の悪口言ってたんだな。

そしたら御剣が、――あ、ケンジの方な。



さらっと言うわけよ。



「結局私は彼と性的交渉を持つに至った訳だが」



ほうほう、セイテキコウショウねぇ。

ベンゴシとケンジって難しい交渉するもんだなぁ。



オレがジョッキ片手に感心していると、

成歩堂が慌てて御剣の口を塞ぎやがった。



「いやいやいやいやいやいやいや。

な、なんでもないから。気にしないでくれよ、矢張」


「なんだよ、セイテキコウショウって」



御剣が成歩堂の腕をもぎ放し



「端的に言うなら性交だ」

「おい御剣!」

「漢字で言うなよ。オレぁ難しいコトぁ苦手でよ」

「なんでもないから!コイツ酔っ払ってて……」

「カタカナで言うならセックスだ。

いやまて、私も彼も男同士なので一般的なセックスを思い浮かべると語弊を招くかもしれんな。

つまりこの場合のセックスは、同性間の肛門性交を指すものであり、

それが同性愛者間での一般的な性行為かはさて置いて」


「わ―――!」



オレと成歩堂が叫ぶのは同時だった。



冗談かと思ったんだけど、そいつ、ホモネタを冗談で話すような男じゃねーんだよな。

成歩堂のうろたえっぷりが何よりの証拠だろ。

たっぷり1分間は、三人ともだんまりよ。長い時間だったぜ。



「………その、なんだ、つまるとこよぉ。

お前ら二人で掘ったり掘られたり、する、仲なわけ?」

「じょ、冗談に決まってるだろ。コイツの冗談、笑えなくってさ……は、ははは」

「いや、一方的だったな。私もキミに挿入行為を返さねばならんのか?」

「返さなくていいから!」

「……別に掘りたくなきゃ無理することも無いと思うけどよ……」

「ム、そうか」

「あ、あのさ矢張」

「はぁ、お前ら二人がねぇ……」

「いやいやいやいやいやいや、そ、それはその」

「堂々としていたまえ成歩堂。なんだ、知られては困るような関係なのか」

「頼むから黙っててくれぇ……」



……意外って言っちゃ意外だけど、成歩堂はそんな気もしてたんだな。なんとなく。

知ってる限りでも、女とほとんどつきあったことねえし。

そこそこ男前だからモテねえわけじゃないんだけど、たまにモーション掛けられてもスルーしやがるんだよな。

もったいねえって、いつも思ってたんだけど。



「いや、別にいいんじゃねえの?」



御剣には悪いけど聞きたくなかったよなぁ。

二人がコッソリ乳繰りあってる分には、

オレの知らない世界で通るもんなぁ。



まぁ、でも



「今時そんな珍しい話でもねえしよ。

別にオメーらがデキててもホモでも、オレには関係無いワケだし、、

友達?であることに関係ねぇし」

「矢張……」



そんな潤んだ目で見るなよォ、成歩堂。

ほ、惚れられても困るしよォ。

掘られるのはもっと困るしよォ。



「だけどよ、御剣」

「なんだ」

「今の話さ、オレもあんま人には言わねえほうがいいと思うぜ。

あ、オレはもちろんオッケーよ。



けどよ、世の中には偏見持ってる奴だってたくさんいるべ。

オマエも成歩堂も一応しっかりした仕事持ってるわけだし、ナイショにしとくに越したこたねえぜ」

「……やはりそういうものか」

「ありがとう、矢張」

「いや、気にすんなって!」

「お前に理解してもらえるとは思わなかったんだ。

……黙っていてごめん。でも、嬉しいよ。



色々あったけど、お前はやっぱり大親友だよ。矢張」




正直、ちょっとだけ、気持ち悪ぃ。



成歩堂がホモだったってことじゃなくて、

それを黙っていた年月が、だ。



でも、まぁ、

オレ、こないだ聞いたからよ。

御剣に会いたくて、弁護士になったっていう恥ずかしい話を。



嬉しそうにしている成歩堂を見てると、単純によかったなって思う。

恋が叶った時ってのはさ、世界中がバラ色よ。

よぉくわかるぜぇ、その気持ちだけはな。



ほっとくと手を握られそうな勢いだったので、

オレは袖をプラプラさせながらとりあえず笑ってた。



御剣は何やら考えているらしく、視線をスコッチグラスに落としたまま黙っていた。

オレが気にするより早く、お相手が



「酔った?」

と顔を覗き込む。

そこに濃密な空気を読み取らざる終えないオレは、ちょっとだけ酔いが醒め、

お勘定を成歩堂に押し付けてとりあえず帰ったってわけさ。












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