「勇ぅ〜〜………開けてくれぇ……」
何時間廊下にいただろうか。
もう諦めてここで寝るしかないと思い始めたとき、ようやく内側から鍵が外される音。
ものごっつ不機嫌そうなツラした勇が、しどけなくバスローブを羽織って半顔を押さえていた。
「……………ドンドンうるせえ……何時だと思ってんだよ」
そう思ってんならさっさと鍵開けろよ!と思ったけどそこはぐっと堪えて、
「ご、ごめん。この辺全然コンビニ無くてさ」
「……あんま遅いから寝てた」
「…………起こしちゃってごめん」
新宿西口副都心。
どこへ行っても高層ビルしかないこの地区は、夜に開いてるテナントも飲み屋くらいだ。
さんざっぱら探し回って、やっとビル地下に閉店間際のコンビニを見つけたときは、
既に11時近かった。
コンドームを貴重品にストックして部屋に戻ると、今度はドアが開かない。
カードキーはもちろん勇と一緒に部屋の中だ。
……おれはそれから二時間近く、ホテルの廊下で放置プレイを食らい、
カップル客にヘンな目で見られ続けていた。
「………頭痛ぇ」
「これ全部飲んだのか!?」
チェアの上にあったクリスマスケーキは食われ、ワインの瓶はからっぽだ。
ヒマに飽かせてハーフボトルを一人で空け、酔いつぶれて眠ってしまったんだろう。
「寝る」
「あ、あのさ。続き……」
「イヌノ」
「な、な、なに?」
「頭痛ぇって言ってんだろ」
「う、う、う、うん」
「しゃべるな」
「……………ハイ」
ベッドのど真ん中で丸まる勇に指一本触れられず、
おれは隅っこで毛布の端を被っていた。
やがて聞こえてくる安らかな寝息。
…………………。
泣かない、泣かない。
いつものことじゃないか。
……いや、ちょっとだけ、泣こう。
+ おしまい +
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