老婆とガキの使いやあらへんで!
〜青春地獄変〜
「このままじゃヤバイと思うんだ」
浅草、雷門の巨大な提灯の下。回復の泉帰りのツヤツヤ主人公が仲魔を前にぼやき始めた。
パールバディが心配そうに顔を曇らせる。
「……人修羅様はコトワリを啓けないことを気にしていらっしゃいますのね。
コトワリは人にしか啓けぬもの。半身悪魔である貴方に見つけられぬのもむべなりませんわ」
「コトワリなんかどうでもいいんだよ!ヤバイっつったらアレしかないだろ!
勇だよ!!」
「はぁ」
「アイツ、歌舞伎町での遅刻をまだ根に持ってる。怒り過ぎて全身顔だらけになるくらいに……。
おれはあいつのためだけにこんなにも尽くして尽くして尽くして(中略)
尽くして尽くしまくっているのに!」
「でも、ムスビのコトワリには賛同されなかったじゃないですか」
「あんなオナニーしか出来ない世界を創世されてたまるか。
俺は太陽の下で勇とデズニーシーでデートしたいんだよ!手を繋いで!!
ちくしょう、俺のどこが不満なんだよ……勇……」
「鬱陶しいところじゃないですかしら?」
パールバディが言った。
「ヘンな柄なところだヒホ」
趣味だけで連れ歩かれているレベル62のジャックフロストが言った。
「童貞だからじゃねえか?」
インキュブスが言った。
「ちくしょうお前ら好き勝手言いやがって!特にチンポケース!
お前ら仮にも神だろ!?悪魔だろッ!?
人間さまの願い一つ叶えなくてどーすんだよ!」
「ヘンな柄の癖に都合のいい時ばかり人間ぶるヒホー」
次の瞬間、ジャックフロストは地獄の業火で溶かされた。
そしてすぐサマリカームで再生された。
「第一回、チキチキ縁結びゲーム!」
垂れ幕が下がると、見守っていた数人のマネカタたちがぱちぱちとまばらな拍手を寄越す。
「ルールは簡単、おれと勇の仲を取り持ったヤツが勝ち!
優勝者にはサカハギから剥いだ顔の服をプレゼント」
「皮の服じゃないんですわね……」
「いらねえよ……オレ、ケースしかつけないし……」
「罰ゲームは邪教の館直行!邪神が出ようが精霊になろうが合体さすのでそのつもりで」
「鬼だ!」 オニが言った。
「なんとでも言え。悪いが仲魔になった以上お前らはおれの支配下にある。
合体させようがマカトラ専用機にしようがおれの自由だ。
一番手はそうだな……願い事っつったら天使系か」
パーティ唯一の大天使、ウリエルがさっと目を反らす。
「どうよ、大天使さまなら恋に迷える子羊を見捨てたりしないよなぁ」
「いや……その……」
「なんだよ、はっきり言ってくれよ」
「上が禁じているんですよ……。ソドミィはちょっと管轄外で……」
口に出すのもおぞましい、というようにウリエルは十字を切った。
「ソドミィ?」
「あの……同性愛はちょっと……。
あ、代わりに千晶様との仲を取り持つことは可能です!
それでなんとかッ!!」
「おれのバックバージンを
あの右手のえじきにするつもりか!
これだから元・ヨスガ配下は信用できないんだ!」
ウリエルは邪教の館で魔神ミトラになって帰ってきた。
「今後ともよろしく……」
「ヨロシクホー」
「しかし、アテにしていた天使系が全滅とはな……」
「アニキ、アニキ」
「なんだインクブス」
「……天使系が駄目なら、逆転の発想でどうすかね。
あいつらと仲の悪いヤツならホモもオッケーてワケよ」
「あら、そうなの?」
「オカマネカタはジャンク屋へ帰れ!
……それで、具体的には誰だ?」
「たとえばオレの同族のリリム」
「あんなレベルの低い小娘今更仲魔にしてどうするんだ」
「チッチッチ、リリム嬢を舐めちゃいかんぜぇ?
成長すりゃ、我らが女王リリス様だ」
「知ってるけど、それが?」
「鈍いなーアニキ。
リリス様っつったら、この世でイチバン最初にフリーセックスをおっぱじめた女でさあ。
言わば乱交の女神様みたいなもんよ」
「フ、フリーセックスか……男子高校生には刺激的な言葉だな。
フリーということは、勇だけじゃなく、氷川さんやジョージとかもその……
フリーにやっちゃっていいのか?」
「ヒッヒッヒ、童貞のくせに妄想だけはいっちょまえだなアニキ。
もう全員で輪になって繋がるのも自由ってわけよ。できればオイラの見えないところで」
「……………しかし却下だ」
「な、なんで?」
「まず、レベル80まで上げるのがめんどい。
あと勇はなんだか知らんが年上の女が好きだ。
おれではなくリリスの肉体の解放のえじきにならんとも限らんからな」
すぐに結果を求めるのが現代の若者。人修羅はものぐさだった。
「洋モノが駄目だとすると、和モノはどうだ?アマテラス!」
「人をAVみたいに呼ぶでない!我は天津国の太陽神なるぞ」
「元祖ヒココモリの天照大御神なら、同じヒココモリの勇の気持ちがわかるんじゃないか?
今回なんか男だか女だかはっきりしないし!勇の気持ち聞いてきてくれよ!」
鬱になったアマテラスはジャンク屋にヒココもった。
「あーらお兄さんいいオ・ト・コ」
「あの人ナイーブなんであんま無茶言わんといてください。
フォローが毎度毎度大変なんです」
アマノウズメがうんざり顔で後を追う。
「アマテラスでも駄目か……」
「そんな時はオイラにお任せあれ!
やぁやぁ我こそは斉天大聖孫悟空!変幻自在怪力無双!
千里の道も金斗雲でひとっ飛び!」
「帰れ」
「いきなり!?」
「西遊記は読んだことがある。お前が出てくると絶対ロクなことにならないんだ」
「まぁいいからオイラの案を聞いてくれよ!
ここからおよそ西に千里、西梁女人国という女だけの国がある。
そこに流れる川の水は、なんと野郎でも坊主でも妊娠しちまうって霊水なんだぜ!
それを飲ませて先にキセイジジツを作っちまおうという作戦だ!
どうだい!オイラ頭いいだろう!」
「……妊娠かぁ……。
………妊婦、勇……。さすがにマニアックすぎるかな……。
いや、それ以前におれたちまだ高校生だからそういうのはちょっと……
受験にも響くし……。
とりあえず妥協策としてユニコーン。
お前ちょっと行ってきて、二度の監禁を経て勇が処女かどうか確かめてこい」
「ヒヒーン」
「経験の浅いヤツほどこだわるんだよなぁ……ヤダヤダ」
「うるさいチンポケース。淫魔のお前におれの純情がわかってたまるか」
「……ひょっとして、羨ましいのか?」
「ああ羨ましいさ!
お前のそのハート柄の股間の一品、否応がなしに目が釘付けになるさ!
…………そうだ。
それ、おれにくれよ」
「はぁ?」
「なんか臭うからくれよ!
おれもそれ装着して、セックスアッピール満タンにすりゃあ勇も見直す!」
「たぶん軽蔑するホー」
「勘弁してくれよ!いくら淫魔だからってむき出しはヤバイ!
外を歩けない!」
「次のレベルアップ時にそのチンコケースおれに寄越すか。
さもなきゃ勇に化けて毎晩夜伽しろ!本職だろ!?」
「いや、オイラは女性専門で……」
「じゃあ千晶のところ行け!」
「死ねって言うのか!?」
「お待ちください」
今まさにインクブスの股間をむしりとろうとする主人公に、パールバディが継承した乙女の仲裁を発揮した。
「わたくしの前身サティにこのような言い伝えがあります。
悪魔辞典のP37、わたくしが夫のための花輪を宙に投げたところ、
突如現れたシヴァの首にかかり二人は結ばれたと……」
「それだ!」
「そうか?」
「なんかロマンチックでリリカルで男子高校生っぽい!
花だ!無理矢理勇の首にかけちまえばこっちのもの!
みんな、花摘んでこい!」
「花か……」
「花ねぇ……」
「ヒヒーン」
「花ってなにヒホー?」
見渡せば浅草の門の外、丸い東京砂漠がどこまでも続いていた。
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『よし、とりあえずおれはこの世界を元に戻す。
こんな不毛な地じゃない、花の咲き乱れる東京だ。話はそっからだ。
勇、待ってろよ!
“老婆とガキの使いやあらへんで”また来週〜〜!!
次週、“笑ってはいけないコラボ魔人” お楽しみに!』
ぱちん、とテレビが消える。
「おやぼっちゃま、お気に召しませんでしたか?
あの少年、ぼっちゃまを楽しませるにはいささか役不足だったのでしょうか」
つまらなそうにテレビを眺めていた金髪の少年が、傍らの老婆にそっと耳打ちした。
「オチが強引? うっかり観てしまってがっかりした?
そればっかりはこのババにもどうしようもございません。
これからの活躍に期待するしかのうございますねぇ。
……というか、こんな下品な番組、ぼっちゃまにはいささか早ぅございますよ」
〜END〜
移転と一緒に消そうかと思いましたが、自分へのいましめとして残しました。
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