現  在  つ  か  わ  れ  て  お  り  ま  せ  ん  。 














お客様がおかけになった番号は現在つかわれておりません。

番号をお確かめの上おかけ直しください。










無機質な女の声にHLDを押し、そしてまたリダイアルの動作を繰り返す。

深夜番組だけが唯一の照明の部屋。液晶画面に明かりが点ってあいつの名前がぼくの顔を照らす。







お客様がおかけになった番号は現在つかわれておりません。





儀式のように繰り返す動作が僕の呼吸を平常に戻す。

少しは眠らないと、また法廷で居眠りする破目になるのに。

酔って掛ける電話は別れへの近道だと、昔酒の席で所長に聞いたっけ。

この電話が掛からなくてよかったのかな。


いやとっくに終わってるんだよな。



番号をお確かめの上おかけ直しください。



そう言われたから、何度も確かめてあいつの番号にかけている。

深夜なのでおかけ間違えのないようにとテレビまで念押しする。






わかってる。

もうどこにも繋がらない番号しかこの手に残されてなくて、

何かの拍子にあいつの声が聞けないかと諦めきれない僕は懲りずにリダイアルを押している。



仕事が忙しいのは幸いだ。

あの事件は否応なしにマスコミに騒がれ、僕の名を一挙に押し上げた。

もう家賃には困らないし仕事にも困らない。

その若さで全部手に入れたなともう会わない友達の揶揄は知ってる、ただの嫌味だ。





お客様がおかけになった番号は現在つかわれておりません。

番号をお確かめの上おかけ直しください。

お客様がおかけになった番号は現在つかわれておりません。

番号をお確かめの上おかけ直しください。






何か一言、せめて一言残していってほしかった。

せめぎあう恨み言が僕の中で黒く蟠り口を苦くする。

ハッピーエンドに得意げな僕は、あいつの目にどう映っていたのかな。



僕のことが嫌いだったのかな。

助けてやったのに、という声がのど元まで出掛かり僕はまたビールを口に流し込む。


















愛していたのにな。

愛していたのに、彼の声も体もその弱さも。

ただ答えはシンプルで、あいつの人生に僕は必要じゃなかった。









これっぽっちも。














何度目のリダイアルかの後、携帯電話が僕の指をすり抜けて落ちた。

機械的な女の声が僕をしつこく打ちのめす。




お客様がおかけになった番号は現在つかわれておりません。

番号をお確かめの上おかけ直しください。





こんなはずじゃなかった。

もっともっと一緒にいられるはずだった。

これからだと思ってた。

二人で出かけるために免許を取ると僕は嬉しそうに話して、

あいつは無理だと笑ってそれから黙って、あのときにあいつはもう。





忘れなくちゃ。

忘れなくちゃ。





あいつはもうどこにもいないんだ。

あいつが不必要な僕を捨てたように、僕もあいつを捨てなければ。

ぼろ屑のように捨ててやるさ。

思い出も過去も未来も全部、全部。



早く忘れなければ、息ができない。


十五年分の想いが、僕を、す。







お客様がおかけになった番号は現在つかわれておりません。






























夜明け頃、ようやく少し眠り、僕は浅い夢を見た。

誰も乗っていないバスの座席で二人並んでいる。

何か言いたげな僕を制してあいつは一言だけ、



「わかっている」



と答えてそこで
目が覚めた。

















つけっぱなしのテレビ。皺くちゃのシャツ。バッテリーの切れた電話。






現在つかわれておりません。

つかわれておりません。

つかわれておりません。

つかわれておりません。
























取り残されているのは、相変わらずの馬鹿な僕。





















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  現  在  つ  か  わ  れ  て  お  り  ま  せ  ん  。